著者
菊田 正太 廣田 哲也 宇佐美 哲郎 矢田 憲孝
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.68-72, 2014-02-28 (Released:2014-03-25)
参考文献数
13

症例は87 歳,女性。受診3 週間前より微熱を認め,1 週間前より血尿が出現した。2 日前よりレボフロキサシンを内服していたが,受診当日に意識障害を主訴に当院へ搬送された。初療時 JCS 200,血圧179/105mmHg,体温36.6℃で血中アンモニア値395μg/dl と高値を示した。尿閉に対する尿道カテーテルの留置により多量の血膿尿を排出し,尿はpH9.0 でグラム陽性桿菌を認めた。メロペネムの投与を行い,血中アンモニア値,意識は速やかに改善し,軽快退院した。尿培養でCorynebacterium urealyticum を同定したため,意識障害の原因はウレアーゼ産生菌感染症による高アンモニア血症と判断した。とくに排尿障害の基礎疾患を有する高齢者で高アンモニア血症を伴う意識障害を認めた場合,炎症所見が軽微であっても閉塞性尿路障害の有無を確認すべきである。さらに閉塞性尿路障害を解除して尿pH が高値の場合,必ず尿のグラム染色を実施し,グラム陽性桿菌を認めればグリコペプチド系抗菌薬の投与が理想である。
著者
的井 愛紗 矢田 憲孝 廣田 哲也
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.748-752, 2017-12-31 (Released:2017-12-31)
参考文献数
10

症例:78歳女性。現病歴:C型肝硬変・肝細胞癌の既往があり,5年前よりグリチルリチン製剤80mg/日を週4回静注されていた。路上で倒れているところを発見され救急要請となり,救急隊到着時の心電図所見は心室細動であった。除細動とアドレナリンの投与を行い,心拍再開後に当院へ搬送された。来院後経過:来院時,血清K 値は1.6mEq/lと低値であり,心電図ではQTc延長(631ms)を認め,低K 血症により心室細動をきたしたものと考えられた。入院後,低K 血症にもかかわらず尿中K 排泄量は多く,第6病日のレニン活性・アルドステロン値はともに低く,偽性アルドステロン症と診断した。グリチルリチン製剤の中止とカリウム補充により血清K値は正常化し,その経過中に致死性不整脈を併発しなかったが,第18病日に低酸素脳症で死亡した。考察:静注グリチルリチン製剤による偽性アルドステロン症から心室細動をきたした稀な1例を経験した。
著者
矢田 憲孝 西尾 健治
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.7-16, 2020 (Released:2020-02-22)
参考文献数
41

血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)は血小板減少・臓器障害・溶血性貧血を呈する比較的稀な病態であり,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP),志賀毒素産生大腸菌による溶血性尿毒症症候群(Shiga toxin-producing Escherichia coli-hemolytic uremic syndrome: STEC-HUS),非典型溶血性尿毒症症候群(atypical HUS: aHUS),二次性TMAに分類される.類似の症状をきたす病態としては播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)の頻度が高く,TMAもDICも早期治療が予後を左右するため,これらの早期鑑別が問題になることがある.血小板減少・臓器障害・溶血性貧血の診療においてはTMAを疑うことが大切であり,そのために最も重要な点は溶血性貧血に気付くことである.溶血性貧血に気付くことが出来れば,ADAMTS13活性など確定診断に必要な検査を提出し,その結果を得るまでにTMAおよびDICの早期鑑別診断を進める.PLASMIC score,腸炎症状,原因疾患,家族歴・既往歴,溶血所見・凝固異常の程度などを指標に可能性の高い疾患を選び出して早期治療を開始しつつ,確定診断が得られるまでは常に他のTMAやDICの可能性も念頭に置いて,治療経過の中で繰り返し判断することが重要である.