著者
矢野 勝也
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

植物が野外で遭遇する環境は、実験室レベルの研究で採用されるような均一な環境条件とはほど遠く、むしろ不均一性を特徴としている。このような不均一な環境条件下における植物は、均一な環境条件では想像もできないような振る舞いを示すことがある。その一例が、乾燥地で植物が深い根を発達させて地下水を吸収する一方で、表層の乾いた土壌に根から水を放出する現象(hydraulic lift)である。本研究は、hydraulic lift現象における水の放出経路を解明し、放出能の種間差を評価することを目的とした。まず、植物根からの水放出経路を追跡するための方法論に取り組んだ。すなわち、植物根の導管にあらかじめ取り込ませたトレーサーから、水移動を把握することを試みた。一部の根からトレーサーとしてセシウムやルビジウムを取り込ませた根系を、高浸透圧条件のゲル上に展開することでhydraulic liftを引き起こさせた。蛍光X線解析装置を用いて、ゲルを含めた根系全体の2次元元素マッピング画像を得ることで、非破壊的にトレーサーの動きを捉えることができた。同様に、導管から色素を取り込ませることによっても、導管内の水移動を追跡できた。これらの結果から、根の形態によって水放出能に違いのあることが示唆された。上層・下層に分かれた栽培容器を用いて、深根性植物6種のhydraulic lift能を比較した。供試したいずれの植物種もhydraulic liftによって下層部から上層部へと水を供給したが、その供給能は種間差が大きかった。根量当たりの水放出能を調べると、供試した5種の植物間では有意差が認められず、主に根量の違いが水放出量を規定していたと考えられた。その一方で、供試した植物種の1つは根量当たりの水放出能が著しく高いことが明らかとなった。
著者
矢野 勝也
出版者
Japanese Society for Root Research
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.11-17, 2006-03-24 (Released:2009-12-18)
参考文献数
20
被引用文献数
4 4

陸上植物の根は, むき出しの「根」で存在するよりも, 共生微生物の菌根菌が共生した状態の「菌根」で存在しているのが普通である. 最も普遍的にみられるのがVA菌根であり, この菌根が形成されると宿主植物のリン獲得能が向上することはよく知られている. しかし, 多くの生態系で植物の成長を律速しているのはリンよりもむしろ窒素であるが, VA菌根菌が宿主植物の窒素栄養に関与しているかどうかは議論が続いてきた. 私たちは最近, アンモニアを吸収したVA菌根菌は速やかに宿主にその窒素を提供するのに, 硝酸を吸収した場合には自らが利用するだけで宿主に受け渡さない, という選択的な窒素供給現象を見いだした. 本稿では, VA菌根菌が宿主植物の窒素栄養にどのように関与するのかについて, 私たちの研究を紹介しつつ, 過去の研究の問題点について議論する.