著者
平野 恭弘 南光 一樹 土居 龍成 西村 澪 杁山 哲矢 谷川 東子
出版者
根研究学会
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.65-75, 2021-09-20 (Released:2021-09-29)
参考文献数
25

令和2年7月豪雨中の7月11日夜,岐阜県瑞浪市大湫町の神明神社に生育し,町のシンボルである大杉が倒木化した.本研究は,大杉倒木化の要因解明に向けた基礎的な知見を得るため,倒木時の豪雨など気象状況とともに大杉倒木の根系状況を明らかにすることを目的とした.2020年7月11日の日降水量は137 mm day-1,時間最大雨量43 mm h-1の豪雨を記録したが,これは過去40年間に大杉が経験した雨量であった.2020年7月は特に日照時間が短く,樹体や土壌が乾きにくい状態であることが推察された.倒木化した大杉は,横方向に最大9.1 m, 縦方向に最大 6.6 mの直径, 最大厚さ2.3 mをもつ巨大な根鉢を地表面に露わにした.根鉢中心部には腐朽が広がり,倒木時に土壌に残存した根には剥ぎ取られたような形跡が認められた.レーザースキャナを用いて,倒木化した大杉の三次元構造をデジタル化して再現した結果,根系体積は43.2 m3と推定された.倒木化した大杉の地下部の広がりや地上部との体積比からも,スギとして大杉の根系は小さいことが示唆された.根系および気象の状況から倒木化の要因として,長年の生育中に根系に進んだ腐朽,および長期間の雨と日照不足に伴う土壌水分量増加による根の土壌支持力の低下,さらにこの気象下における樹体地上部の水分量増加によって,地下部・地上部バランスが崩れたことが推察された.
著者
塩野 克宏
出版者
根研究学会
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.47-62, 2016 (Released:2016-09-26)
参考文献数
95
被引用文献数
3

過湿状態の土壌は低酸素になるだけでなく,還元化による有毒物質が増加するため,ほとんどの植物の生育が阻害される.イネやヨシなどの湿生植物は,根に酸素を通気する細胞間隙である通気組織を発達させて過湿土壌に適応している.酸素は拡散によって通気組織内を移動するため,根の基部において,酸素は根端方向に向かうだけでなく,放射方向にも拡散し,放射状酸素放出 (radial oxygen loss, ROL) として酸素が根から失われる.湿生植物の多くは根の基部に放射状酸素放出を抑制する「ROLバリア」を形成し,根端までの酸素の長距離輸送を可能にしている.根端に届けられた酸素は細胞の呼吸に利用されるだけでなく,根から放出され,還元化した土壌を酸化する.これによって,有毒物質を無毒化し,根端を保護する.根の基部では,ROLバリアの主要成分であるスベリンが外皮に蓄積し,酸素の流出を妨げるだけでなく,有毒物質の根への流入も防ぐと考えられている.ROLバリアの形成にはWRKY,AP2,NAC,MYB型転写因子が制御するスベリン生合成遺伝子が関わると予想されている.しかし,これまでROLバリアを形成できない変異体は得られていない.さらに,どのような環境要因がROLバリア形成の引き金になるのかも不明である.今後,湿生植物の過湿土壌への適応を理解するために,ROLバリア形成に関わる遺伝子,植物ホルモンやシグナル伝達系の特定が求められている.
著者
横山 咲 由利 かほる 森田 祥司 上野 真菜 河端 美玖 雨宮 あや乃 中村 進一 服部 浩之 頼 泰樹
出版者
根研究学会
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.35-41, 2018 (Released:2018-06-26)
参考文献数
11

作物は無機態窒素だけではなく遊離アミノ酸を吸収し,窒素源として利用している可能性がある.しかし,植物の窒素吸収における根のアミノ酸吸収能の寄与は明らかにされていない.我々はまず土壌のアミノ酸動態を明らかにするために,アミノ酸混合液および3種類の有機質肥料を施用し,アミノ酸濃度の変化を経時的に追跡した.アミノ酸混合液の添加ではいずれのアミノ酸も12時間以内に10%以下に分解された.また,有機質肥料の添加では,添加直後のアミノ酸の濃度は最も高く,3日程度で大幅に低下したが,30日目まで高い濃度が維持された.アミノ酸組成は,有機質肥料添加直後には添加した有機物ごとに異なっていたが,時間の経過とともにいずれの有機物の添加でもGln,Arg,Lys,Thr,Glu,Asn,Alaが高い割合で検出されるようになった.これらは土壌微生物の細胞壁の主な構成アミノ酸であり,微生物バイオマスの代謝回転によって,比較的早期 (3日以降) から土壌に供給されることが明らかとなった.有機質肥料添加土壌のアミノ酸は2時間以内の半減期で分解されており,土壌のアミノ酸存在量の約15~20倍のアミノ酸が1日に供給されることが示唆された.植物のアミノ酸吸収能は高いことがすでに示されており,本研究の有機質肥料添加による土壌のアミノ酸濃度・供給量は植物根が利用可能なレベルであると考えられた.
著者
小西 隼平 中野 友貴 伊藤 博武 長嶺 敬
出版者
根研究学会
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.119-123, 2021-12-20 (Released:2021-12-27)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本研究では国内品種を中心とした多様なオオムギ52品種を用いて,種子根の伸長角度の品種間差異をスカイゲル培地法によって調査した.オオムギ種子根伸長角度には大きな品種間差異がみられ,最小値は0° (シュンライ・北陸皮48号) で最大値は58.8° (ビューファイバー) で,平均値は23.7°であった.条性,皮・裸性ともグループ間に有意な差は認められなかった.北陸・長野で育成されたオオムギは他地域育成のオオムギに比べて,種子根伸長角度の小さいことが示された.こういった伸長角度の品種間差異は,育成地によって選抜された品種の特性の違いにより生じたと推測できる.
著者
大山 卓爾
出版者
根研究学会
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.85-91, 1995 (Released:2009-12-18)
参考文献数
14
被引用文献数
2 1
著者
中野 明正 鈴木 克己
出版者
根研究学会
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.141-143, 2013 (Released:2014-12-20)
参考文献数
1

中学生でも,安全で,簡易に薄層切片が調製できる道具を工夫し作成した.今回作成した簡易ミクロトームは,費用も数百円であり継続使用も可能である.植物サンプルの調製にはシードバッグ等を使用することにより,調製の時間が短縮され廃棄も容易となるメリットがある.このような一連の実験を通じて,植物の根がより身近なものとなり,植物科学への関心も高まるものと期待される.
著者
小宮山 鉄兵 安 東赫 新妻 成一 矢作 学
出版者
Japanese Society for Root Research
雑誌
根の研究 = Root research (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.113-118, 2012-12-20

養液土耕栽培では根が灌水施肥部に集中する特徴があり,根の発達と関連性がある養分の吸収が慣行栽培と異なることが想定された.本研究ではトマトの養液土耕栽培における窒素肥料の種類が施肥もしくは土壌に蓄積された養分の吸収に及ぼす影響について明らかにした.硝酸カルシウムを灌水施肥した場合,リン酸無施用条件で減収した.一方,硝酸アンモニウムを灌水施肥した場合はリン酸無施用でも減収しなかった.これは硝酸イオンがリン酸の吸収を抑制している可能性を示唆し,リン酸の肥沃度が低い条件においては硝酸アンモニウムの施用が土壌リン酸の吸収を促進することが示唆された.また,養液土耕栽培によってアンモニウムイオンを局所的に施用することにより,土壌に保持されたカルシウムイオン,マグネシウムイオンが土壌溶液中に置換され,トマトによる吸収量が高まった.一方,有機質肥料の施用はカルシウム,マグネシウムの吸収量を低下させたが,尻腐れなどの生理障害はみられなかった.以上の結果から硝酸アンモニウムを用いた養液土耕栽培では全層施肥栽培や他の窒素肥料を用いた養液土耕栽培と比較してリン酸,カルシウム,およびマグネシウムなどの吸収が促進されると考えられた.処理区によって根量は異なったが,リン酸吸収量と正の相関はみられなかった.
著者
岡田 浩明
出版者
Japanese Society for Root Research
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.3-6, 2002-03-20 (Released:2009-12-18)
参考文献数
9
被引用文献数
7 5

土壌に生息する線虫は, その食性に基づいて5グループ程度に分けられる. そのうち, 物質循環との関わりが強い, 細菌食性線虫と糸状菌食性線虫が, 有機物の分解で生じる無機態窒素の生成量におよぼす影響を調べた実験を紹介した. 細菌食性線虫の実験では, 土壌温度や有機物のC/N比によらず, 線虫を入れた試験区の方が入れない区より無機態窒素の生成量が増えた. 糸状菌食性線虫の実験では, 有機物のC/N比の増加に伴い, 線虫を入れない試験区では無機態窒素の生成量が減少したが, 線虫を入れた区では減少しなかった. また, 糸状菌食性線虫を入れた試験区では, 線虫の増殖適温の下で窒素の生成量が最大になった.
著者
中村 好男
出版者
Japanese Society for Root Research
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.127-133, 2001-12-21 (Released:2009-12-18)
参考文献数
31

根はミミズの生態を調査研究するのに, まことにやっかいな物. 同様にミミズは根の形態や機能を調査研究する場合に, やっかいで, 実験やモデル化にはむしろ存在しないほうが都合が良いようでもある. しかし現実には, 根の生育環境としてミミズは存在する. しかもミミズを移入し栽培した大麦は草丈が伸び, 茎や子実のカルシウム含量や収量が増加した. 移入するミミズ数が増すと, その変化は加速された. この地上部の変化は地下部の変化に対応した結果である. 著者はこの地下部を3機能 (生産・分解・調整) を有する土壌圏としてとらえる必要性, 及びミミズはこれら3機能を正常に, かつ永続的に働くための主要な動物であることを強調したい.
出版者
根研究学会
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.182-191, 2000-12-20 (Released:2009-12-18)
著者
矢野 勝也
出版者
Japanese Society for Root Research
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.11-17, 2006-03-24 (Released:2009-12-18)
参考文献数
20
被引用文献数
4 4

陸上植物の根は, むき出しの「根」で存在するよりも, 共生微生物の菌根菌が共生した状態の「菌根」で存在しているのが普通である. 最も普遍的にみられるのがVA菌根であり, この菌根が形成されると宿主植物のリン獲得能が向上することはよく知られている. しかし, 多くの生態系で植物の成長を律速しているのはリンよりもむしろ窒素であるが, VA菌根菌が宿主植物の窒素栄養に関与しているかどうかは議論が続いてきた. 私たちは最近, アンモニアを吸収したVA菌根菌は速やかに宿主にその窒素を提供するのに, 硝酸を吸収した場合には自らが利用するだけで宿主に受け渡さない, という選択的な窒素供給現象を見いだした. 本稿では, VA菌根菌が宿主植物の窒素栄養にどのように関与するのかについて, 私たちの研究を紹介しつつ, 過去の研究の問題点について議論する.
著者
近藤 始彦
出版者
根研究学会
雑誌
根の研究 = Root research (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.47-56, 2000-06-22
参考文献数
49
被引用文献数
2

国際稲研究所 (IRRI) における1970年代からの陸稲の耐干ばつ性と根に関する育種・生理分野における研究の流れ・成果を紹介するとともに, 現在の研究上・技術上の問題点を考察した. IRRIでの陸稲研究の第1期 (1970年代~1980年代前半) においては, 耐干性遺伝資源の探索と形質の評価が広範に行われ, 深根性の重要性とこの形質の育種へ利用の可能性が示された. 1980年代後半から現在に至る第2期においては, 第1期の成果を受けて, 深根性の遺伝解析が進行中であり, マーカー選抜法の導入や, より厳密な深根形質の有効性評価が可能になることが期待される. 一方, アジア他各地の現地試験での品種比較試験においては, 収量や根の土層内の発達が, 環境要因ならびに, 環境x遺伝 (品種) 要因により非常に強く影響されることが示されており, (1) 根深根性発現に及ぼす環境要因の解明, (2) 深根性以外の形質の評価, の重要性が示唆されている. 陸稲の生産安定化における深根性の有効性は確立されているといえるが, 各栽培地での有効な品種育成, 土壌・栽培技術の確立には, 今後さらに, 異なる土壌・管理条件下における利用可能な遺伝変異内での深根性の効果の限界を見極めるとともに, ストレスタイプごとの有効形質をより明確にしていくことが必要であると考えられる. 特に稲の根の土壌乾燥に対する反応生態の解明が期待される.
著者
松尾 喜義
出版者
根研究学会
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.15-16, 2005-03-22 (Released:2009-12-18)
参考文献数
3
著者
木富 悠花 犬飼 義明
出版者
根研究学会
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.61-71, 2011 (Released:2013-11-20)
参考文献数
56

イネはいわゆる“ひげ根状根系”を形成し,地上部の基部茎葉節から数多くの不定根 (冠根) を発生させる.根の発生はオーキシンにより正に,またサイトカイニンにより負に制御されるが,その分子機構は未解明のままである.そこで著者らの研究グループでは冠根数が著しく減少するイネcrl変異体を材料とし,その中でも冠根原基形成の最も初期段階であるinitiationの過程が阻害されるcrl1, crl4およびcrl5変異体を用いた解析を行ってきた.その結果,CRL4/OsGNOMはオーキシン極性輸送に関与する因子をコードし,基部茎葉節への適切なオーキシンの輸送とinitiation領域での局所的なオーキシンの蓄積を確立することで冠根原基の発生を促すことが考えられた.またCRL1/ARL1およびCRL5はオーキシンシグナル伝達を制御するARFに直接的に発現を誘導され,最終的に冠根形成を正に制御する遺伝子であるということが示唆された.このうちCRL5はサイトカイニンシグナル伝達を負に制御することにより冠根形成を促すことが判明し,オーキシンシグナル伝達とサイトカイニンシグナル伝達を仲介する重要な機能を担うことが示された.
著者
里村 多香美 橋本 靖 木下 晃彦 堀越 孝雄
出版者
Japanese Society for Root Research
雑誌
根の研究 = Root research (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.155-159, 2006-12-29
参考文献数
23

生態系の炭素循環における菌類の役割の重要性が認識されているにも関わらず, 野外条件下で菌根菌に分配される炭素量の推定値は数えるほどしか報告されていない。生態系の炭素循環における菌類の役割について定量的な値を用いて議論するため, アカマツ林で外生菌根菌に分配される炭素量を概推した。直接得られなかった土壌中の外生菌根菌バイオマス, 細根 (菌根を含む) と外生菌根菌のターンオーバーの値は, 文献値を参照した。その結果, アカマツ林の外生菌根菌のバイオマスの総量はわずか10.0gm<sup>-2</sup>であると推定され, 細根のバイオマスが少ないことが大きく影響していると考えられた。この林分では菌根菌の生成と枯死サイクルによって年間に消費される炭素は117.0gCm<sup>-2</sup>year<sup>-1</sup>と推定され, 土壌からの炭素の放出の約24%に相当した。アカマツ林は細根のバイオマス, 細根中の菌類含有量, 外生菌根菌のバイオマスが共に文献値よりも非常に低いという特徴があった。森林タイプ間の外生菌根菌のバイオマスの違いに大きく影響を及ぼしているのは, 細根中の菌類含有量の差異よりも細根のバイオマスの差異であった。外生菌根菌のバイオマスが小さい森林においても, 菌根菌の生成・枯死サイクルによって消費される炭素量は無視できないことが改めて確認された。
著者
白石 啓義 江波 義成
出版者
根研究学会
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.7-10, 2002-03-20 (Released:2009-12-18)
参考文献数
8

トビムシとササラダニは, メソファウナに属する節足動物の一群である. 世界中に広く分布し, 畑地でも普通に見られる. 生態系の中で, 分解者としての役割を果たし, 多くの種は菌食性と考えられている. 著者らは植物病原菌を摂食するヒダカフォルソムトビムシ, アヅマオトヒメダニ等を用い, 苗立枯れ症などの防除に利用する手法を検討し, ポット試験, および枠圃場において病害防除効果を確認している. なお, 一部の種は, 植物を加害すると言われているが, 未だに生態に不明な点が多く, 未知なる領域を秘めた研究対象である.
著者
福嶌 陽
出版者
根研究学会
雑誌
根の研究 (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.14-15, 1992 (Released:2009-12-18)
参考文献数
6