著者
高橋 祐次 相磯 成敏 大西 誠 石丸 直澄 菅野 純
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.45, pp.S6-4, 2018

<p>吸入曝露経路は、工業的ナノマテリアル(NM)の有害性発現が最も懸念されるところである。NMを利用した製品開発が進展する昨今、有害性が人々に及ぶことを防止するための基準作りに必要となる基礎的かつ定量的な毒性情報を迅速かつ簡便に得るための評価法の構築が望まれている。一般的に、生体内で難分解性である粒子状物質の急性毒性は弱く、むしろ、発がんや線維化といった慢性的な影響が問題となることが過去の事例から明らかであり、動物実験による評価が必須であると考えられている。吸引されたNMが毒性を発現する過程において、各種の細胞及び生体内分子との様々な相互作用が想定されるが、慢性毒性発現の起点として、異物除去を担うマクロファージ(Mφ)が重要な役割を果たしていることは論を俟たない。我々は、これまでMφに貪食されたNMのMφ胞体内の蓄積様式(長繊維貫通、毛玉状凝集、粒状凝集)と蓄積量、Frustrated phagocytosis誘発の関係に着目し、マウスを用いた吸入曝露研究を進めている。ここでは長繊維について報告する。吸入曝露には汎用性の高い高分散性NM全身曝露吸入装置(Taquannシステム)を用い、モデル物質として多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を選び、対照群、低用量群(1 mg/m<sup>3</sup>)、高用量群(3 mg/m<sup>3</sup>)の3群の構成で1日2時間、合計10時間の吸入曝露を行った。曝露終了直後(Day 0)において、肺胞Mφ(CD11b<sup>low</sup>CD11c<sup>high</sup>)は用量依存的に減少したが、単球(CD11c<sup>+</sup>CD11b<sup>high</sup>)は用量依存的に増加した。病理組織学的には、MφがMWCNTを貪食し肺胞壁に定着、または細胞死に至っている様子が観察された。Day 0における肺負荷量は、低用量群では約6 µg/g lung、高用量群では約10 µg/g lungであった。MWCNTを貪食したMφは細胞死に至るが、その際に放出するサイトカインが残存するMφ及び単球から分化するMφのM1へ分化を促し、肺全体として炎症が惹起されている状態に移行することが想定される。本シンポジウムではMφの機能に着目したNMの慢性影響評価について報告する。(厚生労働科学研究費補助金等による)</p>