著者
石井 浩之 中田 誠 加々美 寛雄 平 英彰
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.21-32, 2009

&nbsp;&nbsp;1. これまで研究事例のなかった,標高的な森林限界に達していない山岳の亜高山帯針葉樹林域に高山性植物群落が成立している要因を明らかにするため,長野県黒姫山のカルデラ内壁の岩塊斜面下部において,植物群落の特性,立地・気象要因について調査した.<BR>&nbsp;&nbsp;2. TWINSPANの解析によって区分された各群落は,斜面下部から上部へ向かって順に,チシマザサ群落,コメバツガザクラ-ミネズオウ群集,コケモモ-ハイマツ群集,アカミノイヌツゲ-クロベ群集(オオシラビソ群集のコメツガ亜群集),オオシラビソ群集に相当すると考えられた.<BR>&nbsp;&nbsp;3. 黒姫山の岩塊斜面は最終氷期の中期ころ形成され,天狗の露地に成立している高山性植物群落(コメバツガザクラ-ミネズオウ群集)は,そのころに分布していた極地性植物群落に由来すると考えられた.<BR>&nbsp;&nbsp;4. 高山性植物群落の成立に対して積雪が影響を及ぼしているとは考えられなかったが,風穴から吹き出す冷気は高山性植物の繁殖や生存に影響を及ぼしている可能性が考えられた.<BR>&nbsp;&nbsp;5. 天狗の露地には高木性樹種の種子が供給されていたが,岩塊上では土壌の発達がきわめて悪く,薄い植物腐植しか堆積していないため,定着した高木性樹種はその生育が著しく抑制されていた.<BR>&nbsp;&nbsp;6. 本調査地の高山性植物群落に侵入し,その生育地を縮小させるパイオニア的役割を果たしている樹種は,ハイマツと低木状のコメツガであった.<BR>&nbsp;&nbsp;7. 本調査地の岩塊斜面上での植物群落の変遷は,高山性植物群落からコメツガ群落,オオシラビソ群落へと進んでいったと考えられ,岩塊斜面に侵入した植物によるリターの供給と有機物層の堆積が重要な役割を果たしていた.<BR>&nbsp;&nbsp;8. 岩塊斜面の下部に位置する天狗の露地では,粗大な岩塊の影響で土壌の発達が妨げられているために高木性樹種が定着しにくく,高山性植物群落が遺存できたと考えられた.