著者
石原 照敏
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.245-261, 1992-12-31

国際競争下, 日本農業は高品質の農産物を生産するのでなければ究極的には生き残れない. そのために, 地力維持が必要になり, とりわけ畑地的土地利用では輪作が不可欠となる. 日本の輪作の一般的な発展傾向を模索しようとすれば, 少なくとも広域的な範囲での輪作の態様を環境との関連で把握する必要があるが, 従来, このような研究はなされていない. そこで, 本稿では西欧型の一年一作の形をとる北海道の輪作のドミナントな態様を筆者の「土地利用調査」に基づいて把握したもので, 次のことが明らかとなった. 1) 北海道では牧草栽培期間の長い輸作(牧草を7年ほど連作するとよい牧草が生えなくなるので, 牧草地を掘り起こして施肥し, 土壌中に有機物を残すイネ科作物や, 土壌を柔らかにする根菜類を栽培した後, 再び牧草に帰る)がドミナントな形で行われている. 2) このタイプの輪作は雨量の多いイングランド西部や, フランス西部で行われている輪作と同じタイプの一時的草地輸作(Long-ley Rotation)と規定できる. 3) 北海道における一時的草地輪作の成立基盤は, (1)穀作やバレイショ作が冷害を被って行詰まり, (2)農協が気候環境に適応した経営方式(酪農・混合農業)へ転換する農業振興計画を策定した. (3)この計画に基づいて, 農業経営がそのような経営方式への転換を志向した, (4)この転換を促進したのは集約酪農地域の指定などの公共的な助成策であった. (5)新しい経営方式(酪農・混合農業)の導入とともに進展した一時的草地輪作の技術的基盤(泥炭土, 重粘土を排水施設や客土によって改良した)を準備し, 夏冷涼・湿潤な気候環境に適した作付方式(一時的草地輪作)への転換を促進したのは, 土地改良事業, 寒冷畑作振興地域の指定などの公共的な助成策であった.