- 著者
-
石原 真理子
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.127, no.5, pp.329-334, 2006 (Released:2006-07-01)
- 参考文献数
- 32
医薬品,農薬,内分泌撹乱物質,天然および合成有機化合物などの生理活性物質は,その独自の薬理作用と同時に,大なり小なり細胞傷害活性を持っている.この細胞傷害活性の研究は,特にアポトーシス研究の重要なテーマになっている.作用物質の作用発現の決定因子が作用物質の物理化学性にあるのか,作用点に到達してから作用発現させる化学反応性にあるのかで,作用物質の反応性は異なってくる.半経験的分子軌道法(PM3法)によりHOMOエネルギー,LUMOエネルギー,イオン化ポテンシャル(IP),絶対ハードネス(η),絶対電気陰性度(chemical potential,χ),オクタノールー水分配係数(log P)などのデスクリプター(記述子)を算出することにより,構造が類似した薬物の定量的構造活性相関解析(QSAR)を行なうことができる.Betulinic acid誘導体のメラノーマ細胞に対する細胞傷害性は,IPと直線的相関関係を示した.クマリン誘導体の口腔扁平上皮癌細胞に対する細胞傷害性は絶対ハードネス(η)と強く直線的相関性を示した.分子の硬さや柔らかさをPM3法で計算する際にはCONFLEXの使用が有用であった.ゲラニルゲラニオール類,ビタミンK1,K2,K3,プレニルフラボン類,イソフラボン類,没食子酸誘導体,フッ化活性型ビタミンD3誘導体,2-styrylchroman誘導体の細胞傷害性には,疎水性(log P)が大きく影響した.本方法を,生理活性物質のQSAR解析,最安定化構造の予測,細胞傷害活性の検討,そしてラジカル捕捉数の算定に応用した例なども紹介する.QSARは,より活性の高い物質の構造の創薬への貢献が期待される.