著者
石山 千代 窪田 亜矢 西村 幸夫
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.328-335, 2016-10-25 (Released:2016-10-25)
参考文献数
22
被引用文献数
1

我が国における「もっとも初期の住民憲章」であり今日まで約半世紀、運用されている「妻籠宿を守る住民憲章」の起源、すなわち地域が集落保存という新たな方向に舵を切る時に、自主規範としての住民憲章を制定することに着目する点に独自性がある。制定の背景を整理し、制定の過程自体を明らかにすることを通じて、私有財産や自らの生活・生業のあり方を左右しうる住民憲章が広域で合意形成されえた要因と自主規範の制定が集落保存初動期に果たしうる役割を考察した。集落保存の初動期に自主規範を考えることは、地域の置かれている状況を理解し、今後起こりうることを具体的に考え、地域の理念等を徹底的に話し合う重要な機会である。住民間での具体的議論の蓄積による合意形成につながり、一人一人の覚悟、「自律」につながるプロセスと捉えられる。これを促すベースをより良くつくる必要条件として、慎重かつ段階的プロセスと外部主体の活用、集落保存実施以前からの先見性ある対応、事業と計画上での部落間バランス調整と憲章制定の契機があげられる。自主規範が持続的に機能するには明解さも重要ゆえ盛り込める範囲には限界があり、運用システムの構築で補いうる。