- 著者
-
石崎 保明
- 出版者
- 名古屋産業大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2010
本研究の目的は、これまで扱われることの少なかった特に近代英語期以降の口語的資料における句動詞の使用の実態に焦点を当て、その文献学的・時代的背景を考慮しながら詳細に調査し、それらを認知言語学において標準的に採用されている用法基盤モデルの観点から説明することにより、歴史言語学における言語変化理論に対して貢献を図ることである。本研究最終年度となる今年度は、電子コーパス等に収められている口語体で書かれた初期および後期近代英語を中心に調査を進めながら、個々の事例に対して用法基盤モデルの観点から考察した。具体的には、英語表現のイディオム化には、少なくとも、語彙化に由来するものと文法化に由来するもの2種類があり、ともに用法基盤モデルの観点から自然な説明が可能であることを示すことができた。初期近代英語期から後期近代英語期にかけてのoutを含む句動詞の歴史的発達の傾向については、第50回名古屋大学英文学会のシンポジウムで公表し、outを含む句動詞における動詞と副詞の結合の仕方やその結合度のより詳細な歴史的発達については、3年に一度開催される英語の語彙の歴史的発達を射程においた国際会議(The Third International New Approachesin English Historical Lexis Symposium、於ヘルシンキ大学)で口頭発表した。特に後者については、同じく後期近代英語期に発達したoutを含む句動詞であっても、その発達の種類が個別事例により異なり、例えば'to start'を意味するset outは、一見したところ語彙化由来のイディオム化の事例にみえるものの、実際には文法化に導かれたイディオム化の事例であることを論証した。また、用法基盤モデルに基づく英語の歴史的発達に対する分析の妥当性については、語彙の歴史的意味変化を扱った研究書を書評した中でも触れた(2編の書評論文の内1編は、2012年6月に刊行予定である)。