- 著者
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石本 隆士
緒方 茂樹
- 出版者
- 琉球大学
- 雑誌
- 琉球大学教育学部障害児教育実践センター紀要 (ISSN:13450476)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, pp.155-168, 2002-05-01
本研究は、長期的な不登校の状態にある児童に対して行われた取組を取り上げ、特別な支援教育に必要な概念構造を発展させることを目指して計画した事例研究である。通常、学校現場における事例研究は、注目すべき事例の経過報告という形で終わるものが多い。そこで、本稿では、取り上げた事例が学級担任制をとる小学校において実践された意義をふまえ、特に組織の役割とその在り方について焦点を絞り検討を行った。本稿は、事例の中に存在する様々な要素を統合し、いくつかの概念としてまとめ上げていこうとする試みであることから、学校現場における事例研究の方法論的なモデルを示す試みでもある。今回の事例において通常学級に在籍する児童に対する特別支援教育の要素として抽出されたものは、1)状況に対する枠組みの継続的な捉え直し、2)システム論的な観点に立った支援体制の形成、3)こころの有り様に注目し自発的な変容を促す児童中心の関わりの3つであった。そして、支援組織に関する総合的な考察を行う中で、特別な支援教育の発想を具現化していくために必要だと思われるいくつかの方向性について整理した。そこでは、これまで特殊教育と呼ばれる分野で培われてきた専門性を、通常の教育の場において子どもに日常的直接的に関わる教育職員と共有する際の専門性について検討することが必要だと考えられた。また、そのような専門性共有のコミュニケーションに関して検討する際には、時間や空間の共有過程で専門家同士の間に起こっているプロセスに注目していくことが重要であるとも考えられた。本事例では、支援組織の調整役である情緒障害通級指導教室担当者が行ったことを吟味する中で、特別な支援教育を推進していく者の立つ位置として「隙間(を埋める)」という位置がいかに適切であるかということが確かめられたと考えている。