- 著者
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斎藤 功
岡田 恭司
若狭 正彦
齋藤 明
石澤 かおり
- 出版者
- JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
- 雑誌
- 日本理学療法学術大会
- 巻号頁・発行日
- vol.2011, pp.Ca0221-Ca0221, 2012
【はじめに、目的】 変形膝関節症(以下OA膝)は50歳以上の日本人の半数以上が罹患しているとされる一大疾患であり、総数は約700万人と推定されている。進行すると歩行に大きな影響があるため、歩行の改善を目的として種々の保存療法や手術が行われている。そのためOA膝の歩行分析は、より良好な治療効果をあげるため重要な位置を占めている。近年のOA膝の歩行分析では、関節モーメントや下肢の各部位の回旋角度等を検討している報告が多く見られる。しかしこれらから得られる指標は一般には理解しにくく、治療で応用するには問題点が多い。そこで視覚的に理解しやすく、比較的簡便で、測定場所も限定されない足圧分布測定に着目した。目的はOA膝における歩行の特徴を足底圧分布の解析から明らかにすることである。【方法】 人工膝関節全置換術の予定で入院となったOA膝患者さんのうち、杖なしで歩行が可能で手術側に進行したOAがあり、反対側には軽度までのOAがみられた片側性OA膝50例(以下OA群)(男性10例、女性40例、平均年齢75歳)を対象とした。全例歩行時痛があり、50例中12例はKellgren & Lawrence分類のグレード3で罹患側の膝関節の平均ROMは0~135度、20例はグレード4で平均ROMはー5~125度、18例はグレード5で平均ROMはー10~115度であった。対照として下肢に運動器疾患を有しない健常高齢者44例(以下高齢群)(男性8例、女性36例、平均年齢45歳)と、加齢による影響を除外する目的で健常若年者50例(以下若年群)(男性10例、女性40例、平均年齢28歳)を検討した。計測は足圧分布解析システムF-scanIIを装着し、快適速度で歩行時の足圧分布と足圧中心軌跡を3回計測し、その平均値を採用した。歩行路は10mとし前後に各3mの助走路を設けた。足圧は足底を踵部、足底中央部、中足骨部、拇趾部、足趾部に分類し、それぞれの部位で求め、体重に対する比を求めた(%BW)。また足圧中心軌跡長からの前後径の足長に対する比(以下%Long)と、足圧中心軌跡の前額面での移動距離の足幅に対する比(以下%Trans)を求めた。以上の指標をOA群、高齢群、若年群間で比較し、さらにOA群を伸展制限の程度によって細分類した3群間でも比較した。OA群、高齢群、若年群間の統計学的分析には分散分析とpost hoc testを、OA群の群内比較にはFriedman検定を行った。有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は秋田大学倫理委員会の承認を得て、実施した。また、ヘルシンキ宣言に従い、被験者には事前に本研究の目的、方法について、十分な説明し、書面にて研究参加の同意を得た。【結果】 足圧では、踵部の%BWが高齢群(41.7±8.5%)と若年群(37.1±8.9%)に比べ、OA群(27.1±11.2%)で有意に小さかった(p<0.001)。一方、足底中央部では高齢群(16.5±13.8%)と若年群(18.3±7.5%)に比べ、OA群(33.1±11.2%)が有意に大きかった(p<0.001)。%Longは、高齢群(67.8±4.8%)と若年群(64.7±6.6%)に比べ、OA群(52.4±11.3%)では有意に小さかった(p<0.001)。%LongをOA群内で比較すると、膝伸展制限なしの群(62.9±10.9%)、伸展制限5度の群(56.6±6.6%)、伸展制限10度の群(33.1±7.0%)の順に有意に短くなっていた(p<0.01)。%Transは若年群(42.9±11.6%)、高齢群(64.7±6.6%)に比べ、OA(24.8±7.6%)の順に有意に狭かった(p<0.001)。【考察】 進行した片側性のOA膝では、踵部の足圧が小さい一方で足底中央部が健常者に比べ大きく、かつ足圧中心軌跡が前後方向、左右方向とも有意に短くなっており、OA膝では荷重が若年者やOAの軽い高齢者に比べ前方に偏っていることが示された。またOA群内の比較で、膝関節伸展制限の程度が足圧中心軌跡の短縮と関連していることも明らかとなった。以上から進行した片側性OA膝では、膝関節伸展制限があるため踵接地から立脚期に十分な踵部への荷重ができず、結果として荷重部位が前方に偏り、足圧中心軌跡も短縮したものと推定された。【理学療法学研究としての意義】 足圧解析による評価指標は多様であるが、分析方法を工夫することで一般にも分かりやすく説明することが可能である。OA膝の治療に足圧解析を用いることで病態の解明だけでなく、患者教育も容易となり、より効率的なリハビリテーションが実現できることが期待される。