著者
石田 修平
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Df0861, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 癌患者に対しては早期からの介入により、その後予測される身体機能の低下に対して、環境作りや身体機能維持を目的としたアプローチが必要とされている。また、患者とのコミュニケーションを検討することによって、主体性をもたせることはtotal painの緩和に対して重要な点でもある。この度、終末期癌患者を担当し、息子の結婚式への出席に向けた介入を行う機会を得たため、ここに報告する。【症例】 (症例紹介)症例は70歳代女性。夫と同居。診断名は胃癌で、肝蔵、リンパ節、骨への転移が認められている。 (臨床像、評価)日中は臥位で過ごすことが多い。ADLは、最大介助レベルであり、安静時、運動時ともに腰部痛がある。疼痛の程度は安静時にNRS3、運動時にNRS7となる。このため、座位保持時間は背もたれの有無に関わらず5分程度である。 結婚式は、症例の予後が長くはないために、計画されたものである。介入当初は出席への意欲的な発言も聞かれたが、腰部痛の増強によりADLの低下が現れてくる頃には、自身の体調を気にすることが苦痛となり、“行っても疲れるだけ”、“行かなくて良いなら行きたくない”などの消極的な発言が多くなった。しかし、その反面、自身のために計画された式のため、行かなければならないという思いも強い。 (実際のプログラム)症例も夫も、身体機能向上に向けた理学療法よりも、緩和的な理学療法を希望された。そのため、体調に応じての座位訓練や、マッサージ、ストレッチ、精神的ストレスを軽減させる・主体性を高めるためのコミュニケーションなどを主に実施した。【説明と同意】 今回の発表にあたり、症例本人やご家族に発表の主旨、内容、プライバシーの保護等についての説明を行い、同意を得た。【経過】 理学療法は入院直後から、介入を開始した。介入当初は身体機能の維持、改善を目的に車いす座位練習や起立練習などを実施していた。しかし、骨転移の影響による腰部痛が徐々に増強してきたことや、症例や夫から身体機能向上を目標とした積極的な訓練よりも、緩和的介入に対する希望があったこともあり、体調に合わせて座位練習やマッサージ、ストレッチ、コミュニケーションを行うに至った。 身体機能の低下に伴って、徐々にADL能力の低下も認められるようになり、座位保持可能な時間も減少してきた。結婚式では、30分程度の座位をとる必要があったが、結婚式に対して意欲的な発言も減少してきたため、座位時間確保に向けた訓練も実施しにくい状況であった。このような中でも、身体的・精神的な苦痛を取り除くためのマッサージやコミュニケーションでの介入を継続して行っていった。最終的に結婚式は周囲の協力もあり、ストレッチャーにて出席された。出席後には“行ってよかった”“皆さんが優しくしてくれた”等の発言が聞かれた。【考察】 結婚式の出席に消極的であった症例からも、“行ってよかった”との発言が聞かれ、症例や夫の思いを尊重しながらの結婚式に向けた介入は実施できたと考えられる。内山らは、終末期の癌患者はADL向上よりもQOL向上を目的とするため、「残された時間を患者がどのように過ごすことを望むか」ということが重要になると述べている。このことからも、この度の介入は妥当なものであったと言えるのではないだろうか。しかしその一方で、身体機能の低下は顕著に認められた。終末期において身体機能低下に伴うADL低下は不可避ではあるが、積極的な訓練を行っていくことで、機能低下を緩徐なものとできていたかもしれない。また、結婚式という目標がある以上は、緩和的介入を実施しながらも、座位耐久性や実施可能な運動、疼痛を緩和できる方法などを正確に把握しておくことは必要であったと考えられる。 今回、治療的介入と緩和的介入をどのように組み合わせ関わっていくことが必要かという点に最も苦慮した。寄本らは、リハビリ専門職による緩和ケアとは、どのような場合であっても、リハビリ介入を通して、患者がモチベーションを高め、「積極的に今を生きる事」を支援することであると述べている。このことを踏まえると、今回のコミュニケーションを含めた理学療法の介入は、症例の結婚式出席への意欲を少なからず保つことができたため、適切な介入の1つの形であったのではないかと考えられる。【理学療法研究としての意義】 身体機能面を把握することだけでなく、患者の苦痛も理解し、理学療法を通じて希望や思いを支えていくことの重要性が示唆された。
著者
井原 熙隆 石田 修平 松本 拓也 江草 典政 馬庭 壯吉 平川 正人
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.1162-1171, 2016-04-15

高齢化あるいは疾患のために自らの足での歩行に不安がある場合,杖などの歩行補助具に頼ることになる.歩行動作を正確に獲得することは診療ならびにリハビリテーションプログラムの策定にあたり不可欠であるが,これまでは目視で行われることが多かった.身体あるいは歩行補助具にセンサを取り付けたり3次元運動解析システムを用いる方法もあるが,できるだけふだんどおりの状態の下で計測できることが望ましい.本研究では,フロア設置型圧力センサの上を歩行する患者の足ならびに杖の領域を抽出・追跡し,歩行能力を客観的に把握することを目指したシステムについて述べる.変形性関節症患者の歩行分析への試行を通して,獲得された分析データが臨床的特徴と合致することを確認した.