著者
高橋 五郎 磯辺 俊彦
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.91-104, 1990-02

サン-シモンとフーリエの思想には,生産協同組合の思想の萌芽が見られた.本稿では,その萌芽にすぎなかった思想が徐々に発展させられていった様子を,彼らの弟子たちの思想を見ることによって辿ってみたものである.従来,サン-シモンとフーリエの思想のなかから生産協同組合論を見出だそうとの試みは,全くといってよいほど行われてこなかった.その理由の大きな部分は,生産協同組合研究は社会主義論の次元で扱われてきた傾向が強いことに見出だされる.また,マルクスやエンゲルスの偉大すぎる生産協同組合論のまえに,彼ら以前の生産協同組合論が埋没してしまって,その発展史を辿ることすら無意味のように思われてきたためとも見られる.しかし資本主義体制のなかでは,生産協同組合の仕組みをそなえた個別企業の存立する条件はないと断定することは疑問である.わが国農業の現状を見ても,農協が生産協同組合としての機能をそなえるならば,従来見られた農業生産組織論や最近の「集団的土地利用秩序」論の発展を深めるなかで,有効な農業生産機能をそなえることができる展望が持てよう.本稿は,こうした観点からマルクスやエンゲルスの思想以前に遡ることを通じて,そこに,現代社会に通じる生産協同組合論の基層的考え方を拾いだし再評価の機会をつくり出してみようと試みたものである.サン-シモンとフーリエの膨大かつ難解な著作からそれを完全なまでに行うことは不可能に近いが,本稿は,その糸口の発見に重点を置いたものである.