著者
礪波 健一 田村 友寛 高橋 英和 荒木 孝二
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.320-327, 2012-10-31

目的:近年,審美歯科へのニーズの高まりから,歯の漂白が歯科臨床で行われる機会が増えている.一方,漂白作用の本質を担う活性酸素の作用は非特異的であるため,象牙質の機械的特性にも影響を与えることがわかっている.本研究では,漂白処理後の歯の象牙質の引張強さについてワイブル分析を行い,処理面や処理回数といった条件の違いが象牙質の破壊原因の違いに及ぼす影響について検討した.材料と方法:牛切歯の歯冠唇面を薄切し,象牙質に漂白処理面を形成した.同面に漂白処理として,ハロゲンランプ照射下で30%過酸化水素水を15分作用させた.漂白処理回数は1回もしくは3回とした.漂白処理した牛切歯の歯冠唇側表面からの深さ2.5〜3.5mmの象牙質よりダンベル型の象牙質引張試験片を作成し,象牙質引張試験を行った.各条件ともn=10とし,引張強さの平均をその条件の引張強さとした.上記象牙質処理の2条件に加え,既報(J Med Dent Sci 2008; 55: 175-180)で得られたエナメル質処理2条件および,コントロールの引張強さを用いて,統計処理とワイブル分析を行った.ワイブル分析では,各条件のワイブルプロットについて,回帰直線の傾きとして得られるワイブル係数を求め比較した.成績:象牙質引張強さは,漂白処理回数が増えるほど低下する傾向を示したが,エナメル質処理,象牙質処理で象牙質引張強さに違いは認められなかった.一方,ワイブル分析ではエナメル質処理,象牙質処理でワイブルプロットに違いを認めた.すなわち,象牙質処理群では処理回数の増加に従い,ワイブルプロットが全体的に低強度側に移動したのに対し,エナメル質処理群では,漂白処理により強度の順位が高い試片の強度が下がる傾向を示した.象牙質処理では活性酸素の影響がほかの欠陥を凌駕して単一の破壊原因となる一方,エナメル質処理では活性酸素の影響が既存の欠陥と競合する形で破壊原因の一つに加わったことが,ワイブルプロットの違いとなったことが考えられる.ワイブル係数はエナメル処理群において処理回数とともに増加したことから,信頼性の点からはエナメル質処理のほうが象牙質強度に与える漂白処理のリスクが少ないことが考えられた.結論:以上の結果より,漂白歯の象牙質引張強さは漂白処理回数や,処理面に影響を受けるため,臨床において象牙質強度に配慮した漂白処置が必要であることが示唆された.