著者
小西 秀和 荒木 孝二 砂川 光宏 高瀬 浩造 加藤 熈
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.455-465, 2007-08-31
被引用文献数
11

近年,多くの医療機関において「院内感染」という病院内の安全管理に支障をきたす事態が多数発生しており,一般開業歯科診療所や病院歯科においても例外ではない.そこで本研究では,日常的な歯科臨床を実践するうえで,歯科医師会に属する歯科医師の院内感染予防対策意識の現状を明らかにすることを目的とした.山口県内の歯科医師(歯科医師会会員)744名に対して,感染予防対策に関するアンケート調査を実施したが,その設問内容は,対象とした歯科医師の年齢層,日常的な歯科臨床での感染予防対策などの12項目とした.回収したアンケートを集計し,Spearman ρ相関分析にて統計学的分析を行って,各設問回答間の相関程度など歯科医師の感染予防対策意識の現状を検索した結果,次のことが明らかとなった.1. 感染予防対策のアンケート回収率は24.2%であった.代表的な設問での最高の回答率の選択肢を列挙すると,ユニバーサル(スタンダード)プリコーションの認知度は「全く知らない」(43%),帽子やプラスチックエプロンなどの着用は「ほとんど着用しない」(62%)など,本調査時点で多くの歯科医師が万全な感染予防対策を実践していない可能性が考えられた.2. しかし,手洗いの方法は「日常手洗いと衛生的手洗い」(61%),ウイルス性肝炎患者の歯科診療は「診療を行っている」(95%)など,感染予防対策の重要性を認識している歯科医師は比較的多いと思われた.3. 相関分析の結果,歯科医師の年齢が若いほど,帽子やブラスチックエプロンなどの着用には消極的であるが,グローブの着用交換,ウイルス性肝炎患者の歯科診療を積極的に行っている可能性が高いこと,またユニバーサル(スタンダード)プリコーションの認知度が高いほど,グローブの着用交換,帽子やプラスチックエプロンなどの着用,エイズ・結核患者来院時の対応,診療時の飛沫粉塵対策を積極的に行っている可能性が高いことが,有意に示された.以上の結果から,改正感染症法の施行に伴い,今後歯科医師へ院内感染予防対策の啓蒙や研修の機会を増やし,国際歯科連盟(FDI)の声明や米国疾病管理予防センター(CDC)ガイドラインなどに示された具体的な感染予防対策の普及促進が実現すれば,各自の歯科診療室を衛生的で快適な診療環境に整備できると考えられる.
著者
礪波 健一 田村 友寛 高橋 英和 荒木 孝二
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.320-327, 2012-10-31

目的:近年,審美歯科へのニーズの高まりから,歯の漂白が歯科臨床で行われる機会が増えている.一方,漂白作用の本質を担う活性酸素の作用は非特異的であるため,象牙質の機械的特性にも影響を与えることがわかっている.本研究では,漂白処理後の歯の象牙質の引張強さについてワイブル分析を行い,処理面や処理回数といった条件の違いが象牙質の破壊原因の違いに及ぼす影響について検討した.材料と方法:牛切歯の歯冠唇面を薄切し,象牙質に漂白処理面を形成した.同面に漂白処理として,ハロゲンランプ照射下で30%過酸化水素水を15分作用させた.漂白処理回数は1回もしくは3回とした.漂白処理した牛切歯の歯冠唇側表面からの深さ2.5〜3.5mmの象牙質よりダンベル型の象牙質引張試験片を作成し,象牙質引張試験を行った.各条件ともn=10とし,引張強さの平均をその条件の引張強さとした.上記象牙質処理の2条件に加え,既報(J Med Dent Sci 2008; 55: 175-180)で得られたエナメル質処理2条件および,コントロールの引張強さを用いて,統計処理とワイブル分析を行った.ワイブル分析では,各条件のワイブルプロットについて,回帰直線の傾きとして得られるワイブル係数を求め比較した.成績:象牙質引張強さは,漂白処理回数が増えるほど低下する傾向を示したが,エナメル質処理,象牙質処理で象牙質引張強さに違いは認められなかった.一方,ワイブル分析ではエナメル質処理,象牙質処理でワイブルプロットに違いを認めた.すなわち,象牙質処理群では処理回数の増加に従い,ワイブルプロットが全体的に低強度側に移動したのに対し,エナメル質処理群では,漂白処理により強度の順位が高い試片の強度が下がる傾向を示した.象牙質処理では活性酸素の影響がほかの欠陥を凌駕して単一の破壊原因となる一方,エナメル質処理では活性酸素の影響が既存の欠陥と競合する形で破壊原因の一つに加わったことが,ワイブルプロットの違いとなったことが考えられる.ワイブル係数はエナメル処理群において処理回数とともに増加したことから,信頼性の点からはエナメル質処理のほうが象牙質強度に与える漂白処理のリスクが少ないことが考えられた.結論:以上の結果より,漂白歯の象牙質引張強さは漂白処理回数や,処理面に影響を受けるため,臨床において象牙質強度に配慮した漂白処置が必要であることが示唆された.