著者
礪波 朋子 三好 史 麻生 武
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.158-167, 2002-08

本研究の目的は,幼児同士の共同意思決定場面で子ども達が実際に行った相互作用を詳細に分析し,そこで生じる対話の構造を検討することであった。幼稚園年中児28名(平均年齢5歳3カ月),年長児58名(平均年齢6歳0カ月)が同性2人組でロケット模型の中に入り,退出するという共同意思決定をするか,15分経過し実験者が迎えに来る時まで乗り続けた。ロケットから降りるか乗り続けるかを巡る子ども達の発話及び行動を分析した。その結果,両者の意見が一致しても必ずしも最終的な共同意思になるとは限らないことが明らかになった。実際の退出を巡るやりとりの中で,約60%の子ども達が1回以上意見変容していた。どちらも3回以上意見変容するペアも全体で16%存在した。また,自己の直前の意見を変えたり他者を裏切るような変容が全意見変容の24%を占めていた。以上の結果より,幼児の意思は変わり易く,他者とのやりとりの「場」の中で揺らぎながら生成されていくことが明らかになった。本研究では,幼児期の顕著な意思の揺らぎを,精神内機能がまだ十分に発達していないときに意思決定を精神間交渉に委ねていることを示すものとして捉えた。最後に,この時期に自己と他者の異なる意見を折裏したダブルボイス発話が少し見られたことは内的対話が可能になり精神内機能が発達してきた萌芽と考えられることを指摘した。