著者
神田 洋
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
vol.28, 2018-03-31

本稿は,薬物使用疑惑のある選手が米国野球殿堂の記者投票で得票を伸ばしている背景を分析することで,スポーツジャーナリズムの問題点や野球殿堂が果たすべき役割を解き明かそうとしたものである。 野球殿堂の投票者へのアンケートの結果,1998年に起きた薬物騒動への対応に問題があったと多くの記者が考えていることが分かった。当時の報道の検証から明らかになったのは,球界幹部や報道陣に見られた薬物容認の姿勢であり,それゆえ選手だけに薬物問題の責任を負わせることへの疑問が高まった。今後は,野球殿堂が歴史博物館として薬物問題をどのように取り上げるかが課題となる。
著者
神田 洋
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.31, 2021-03-15

1998 年の米大リーグを報じた日本のマスメディアには,筋肉増強剤使用を容認する記事が表出した。強打者マグワイアがシーズン中に筋肉増強剤の使用を告白し,年間本塁打記録を更新。薬物使用を巡り米国で起こった論争を受け,日本でも薬物批判だけでなく薬物容認論が出た。 米国の薬物容認論は批判への反論であり,日本でも同じ図式の容認記事が見られた。それらはHoberman ら米国の先行研究が示した容認の理由に合致するか,あるいは理由を日本の状況に置き換えて解釈することができた。その一方で日本にしか見られない無造作な容認と言える記事も多く見られた。筋肉増強剤での肉体強化という逸脱行為そのものを楽しむ姿勢や,大リーグの権威への無批判な追随が,無造作な薬物容認を生んだ背景で特に目立ったものであった。いずれの背景も海外事情を報じる日本のジャーナリズム全般の問題につながるものであり,日本ジャーナリズム史の中での大リーグ薬物報道の位置づけは今後の課題となる。