著者
神田 浩里 岡田 薫 川喜田 健司
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.802-810, 2010 (Released:2011-05-25)
参考文献数
21

【目的】鍼や灸刺激の反応のひとつとして、 求心性の無髄C線維の軸索反射によるフレア反応が観察される。 カプサイシン溶液を皮膚に貼付するとフレア反応を誘発し、 繰り返し貼付するとカプサイシン感受性C線維を脱感作させる。 本研究では、 鍼灸刺激で誘発されるフレア反応に関与する受容体を調べることを目的に、 フレア反応への脱感作の影響を検討した。 【方法】同意の得られた健康成人13名 (男性6名、 女性7名;26.0±5.6才) を対象とした。 カプサイシン溶液 (0.1%) を濾紙 (20×20mm) に含ませ、 左前腕内側部に3日間貼付 (6時間/1日) し脱感作させ、 その対側をコントロール部位とした。 両部位の熱・機械的痛覚閾値、 鍼や灸刺激による皮下血流量の変化を測定した。 【結果】脱感作部位ではコントロール部位に比べ、 熱痛覚閾値は有意に上昇したが、 機械的痛覚閾値変わらなかった。 また脱感作により、 灸刺激によるフレア反応は減少し、 鍼刺激によるフレア反応は消失した。 【考察】鍼や灸刺激は主にカプサイシン感受性C線維よってフレア反応を生じることが明らかとなった。 熱刺激に応じる熱受容チャネルはTRPV1以外にもいくつか報告されているが、 今回灸刺激によって起こったフレア反応はカプサイシン脱感作により大きく減少したことから、 主にTRPV1を持つカプサイシン感受性C線維を介して起こったことが考えられた。 また、 脱感作後に灸刺激によって起こったわずかな反応は、 他の温度受容体も関与するかもしれないことを示唆している。 一方、 鍼刺激によるフレア反応は脱感作によって完全に消失した。 機械的痛覚閾値が脱感作によって影響を受けなかったことや、 TRPV1は機械刺激では興奮しないため、 鍼刺激によるフレア反応は機械刺激ではなく組織損傷で産生される化学物質によって引き起こされた可能性が考えられた。