著者
神田 竜也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.21-43, 2010-01-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
25
被引用文献数
1 2

本稿では,長門市油谷地区の事例を中心にして,肉用牛繁殖農家の水田放牧導入とその普及要因を明らかにし,水田放牧の規模拡大および新規導入を可能とする条件について検討した.油谷地区における水田放牧の普及要因には,①放牧施設の整備に関連する事業の助成を利用できたこと,②肉用牛飼養の省力化,飼料コストの削減に水田放牧が効果的であること,③畜舎近くのまとまった土地を放牧地に利用できたこと,④地域リーダーの存在を指摘できる.また,放牧地の確保と放牧面積拡大,低コストによる放牧施設の整備,先発放牧農家の指導的役割が,水田放牧の新規導入と継続のための条件として位置づけられる.水田放牧による畜産的土地利用は,耕作放棄の進む中山間地域において,肉用牛繁殖農家の高齢化対策と新たな農地管理策としての可能性を有している.