著者
田原 雄一郎 神谷 桜 渡部 泰弘
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.101-107, 2011-06-15 (Released:2011-12-15)
参考文献数
10

粘着トラップによる3種ゴキブリ(チャバネゴキブリ,ワモンゴキブリおよびトビイロゴキブリ)の捕獲率「(捕獲数÷放飼数)×100」は日ごとに低下した.これは粘着トラップを避ける個体が増加したことによると判断した.チャバネゴキブリでは令別,雌雄での比較で♂>♀>老齢>若令の順に捕獲率は高かった.特に,若令は捕獲されにくかった.一週間にわたり捕獲をまぬがれた個体(経験群)と新しく放飼された個体(未経験群) では,常に前者の捕獲率が低かった.これは,経験ゴキブリ群が粘着トラップに捕獲されないような行動を「学習」したものと推察した.経験群をしばらくトラップから避けて飼育する中断期間を与えたところ,トラップを避ける行動は5週間まで維持された.粘着板を避けるには触角の働きが大きいと思われる.触角の先端部の微毛は粘着面を感知するだけでなく,粘着面への付着を防いでいると考えられる.生きている間は触角を空中に保持し,死亡すると付着した.モニタリングや殺虫剤の効果判定の目的で,粘着トラップを連続して使用したり,頻繁に使用したりすると,トラップ捕獲率が低下し,得られたゴキブリ指数がその場のゴキブリ生息状況を正しく反映しない可能性があることに留意すべきである.