著者
多賀谷 光男 福井 俊郎
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

神経伝達物質はV型ATPaseによって形成されたpH差によって分泌顆粒内に蓄積されることはわかっているが、蓄積された化合物の開口分泌の機構はよくわかっていない。NSF(N-ethylmaleimide-sensitire factor)は最初ゴルジ体内小胞輸送に関与するタンパク質として発見され、さらに小胞体からゴルジ体へのタンパク質輸送、エンドリーム融合にも必要なことが明らかにされたタンパク質である。NSFの開口分泌への関与を調べるためにNSFが分泌顆粒の一種であるシナプス小胞に存在するかどうかを調べた。シナプス小胞を精製後、抗NSF抗体を用いてウエスタンブロッティングを行ったところ抗体と反応しNSFと分子量の同じタンパク質の存在を確認した。さらに、ケイ光抗体法と免疫電顕を用いてこのタンパク質が確かにシナプス小胞に結合していることを確かめた。NSFはMg・ATPによってゴルジ膜から遊離するが、このタンパク質は同様な処理でシナプス小胞から遊離せず、なんらかの機構でシナプス小胞膜に強く結合していると考えられた。NSFがシナプス小胞に存在することから、現在ヒト脳のNSFのクローニングを進めている。CHO細胞のNSFのCDNAの断片を用いてヒト脳のCDNAライブラリィをスクリーニングし、いくつかのポジティブクローンを得た。クローンをサブクローニングし、末端の構造解析を行った結果、おそらく全領域をカバーするクローンが得られたものと思われる。現在全塩基配列の決定を行っている。