著者
多賀谷 光男
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

分泌系蛋白質の細胞内輸送は角オルガネラをつなぐ小胞によって媒介されている。N-エチルマレイミド感受性因子(NSF)は、最初ゴルジ体内小胞輸送に関与する因子として発見、精製されたが、後に小胞体からゴルジ体への輸送やエンドソームの融合にも関与することが明らかにされ、小胞輸送の中心的役割を担う蛋白質であると考えられている。NSFはSNAPと呼ばれる膜表在性蛋白質と膜内在性のSNAPレセプターとの複合体を形成して膜に結合している。私たちは今年度の研究によって、NSFがシナプス小胞にも存在することを生化学的、形態学的に明らかにし、この蛋白質が神経伝達物質のエキソサトーシスにも関与している可能性を示唆した。また、ヒト脳NSFのクローニングに成功し、アミノ酸の推定一次構造においてチャイニーズハムスター卵巣細胞のNSFと97%もの相同性があることがわかった。更に、各臓器におけるmRNAの発現量を調べたところ、NSFは脳において最も多く発現していることが明らかとなった。これらの知見および肝臓からゴルジ体が比較的きれいに精製できることを考慮して、NSF複合体をラット脳および肝臓より精製することを試みた。まず最初に、NSFのシナプス小胞への結合様式について調べた。ゴルジ体のNSFはATP・Mg^<2+>の添加によって膜より遊離してくるが、シナプス小胞に結合したNSFはこの条件では膜から遊離せず、可溶化にはコール酸やデオキシコール酸のようなイオン性の界面活性剤が必要であった。現在、可溶化したNSF複合体の精製を進めている。ラット肝臓のNSFは非イオン界面活性剤であるTriton X-100で可溶化された。このNSFは20Sの沈降計数を持つことから複合体として存在することは確実であり、現在この複合体の精製も進めている。
著者
多賀谷 光男 福井 俊郎
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

神経伝達物質はV型ATPaseによって形成されたpH差によって分泌顆粒内に蓄積されることはわかっているが、蓄積された化合物の開口分泌の機構はよくわかっていない。NSF(N-ethylmaleimide-sensitire factor)は最初ゴルジ体内小胞輸送に関与するタンパク質として発見され、さらに小胞体からゴルジ体へのタンパク質輸送、エンドリーム融合にも必要なことが明らかにされたタンパク質である。NSFの開口分泌への関与を調べるためにNSFが分泌顆粒の一種であるシナプス小胞に存在するかどうかを調べた。シナプス小胞を精製後、抗NSF抗体を用いてウエスタンブロッティングを行ったところ抗体と反応しNSFと分子量の同じタンパク質の存在を確認した。さらに、ケイ光抗体法と免疫電顕を用いてこのタンパク質が確かにシナプス小胞に結合していることを確かめた。NSFはMg・ATPによってゴルジ膜から遊離するが、このタンパク質は同様な処理でシナプス小胞から遊離せず、なんらかの機構でシナプス小胞膜に強く結合していると考えられた。NSFがシナプス小胞に存在することから、現在ヒト脳のNSFのクローニングを進めている。CHO細胞のNSFのCDNAの断片を用いてヒト脳のCDNAライブラリィをスクリーニングし、いくつかのポジティブクローンを得た。クローンをサブクローニングし、末端の構造解析を行った結果、おそらく全領域をカバーするクローンが得られたものと思われる。現在全塩基配列の決定を行っている。