著者
野田 優希 古川 裕之 福岡 ゆかり 松本 晋太朗 小松 稔 内田 智也 藤田 健司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101534, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 近年、各種スポーツに関する外傷・障害調査は多数報告されているが、バレーボールに関する報告は比較的少ない。過去の報告では、その多くが全体もしくは男性のみ、女性のみの疾患別の割合を示したものであり、傷害と性別の関係を分析した報告は我々が渉猟し得た限りではみられない。そこで今回、2007年4月から2011年10月までに当院を受診したバレーボール競技者の傷害調査を行い、男女間で傷害発生部位が異なるか否か、また各部位ごとの発生傷害に違いがみられるかについて傷害発生率をもとに検討した。【方法】 2007年4月から2011年10月までに当院を受診したバレーボール競技者718名1524件(男性431件、女性1093件)のうち30代未満の競技者(469名、1046件)を男女に分けた(男性:142名、332件、女性:327名、714件)。傷害部位は、肩関節、腰部、膝関節、下腿、足関節、足部、その他の7部位に分け、各部位ごとの傷害発生率を算出した。また、各部位で傷害を疾患別に分類し疾患別傷害発生率を算出した。分析については、各部位ごとの傷害発生率が男女間で違いがみられるか検討し、さらに各部位内の疾患別傷害発生率が男女間で違いがみられるか検討した。統計学的検定には、カイ二乗独立性の検定を用い有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 当院倫理委員会の承認を得、各被験者には本研究の趣旨と方法について説明し同意のうえ実施した。【結果】 各部位別の傷害発生率は、肩関節は男子で11.8%、女子で7.6%、腰部は同様に11.8%、13.6%、膝関節は27.6%、23.8%、下腿は5.6%、8.3%、足関節は21.7%、14.7%、足部は7.1%、16.0%で部位ごとの傷害発生率に性差はみられなかった。各部位内での疾患別傷害発生率では、肩関節と腰部、足部で男女間に違いがみられた。これら3部位内において男女間で傷害発生率が異なる傾向がみられたのは、肩関節では、インピンジメント症候群と腱板炎・腱板断裂でともに男性の発生率が高い傾向であった。腰部では椎間板性腰痛症でこれも男性の発生率が高い傾向であった。足部では中足骨骨膜炎・疲労骨折、扁平回内足で、これは女性の発生率が高い傾向であった。【考察】 バレーボールの傷害特性として、肩関節、腰部、膝関節、足関節に傷害が多いことは周知のとおりである。また、バレーボールは男女問わず小学生から中高年まで幅広い年齢層に競技者が多いスポーツである。そこで今回傷害発生率に性差がみられるか検討した。選択した7部位の傷害発生率に性差はみられなかったが、これはバレーボールの傷害において男女ともにこれらの部位に傷害発生率が高いことを示しておりこれまでの報告を支持する結果となった。肩関節、腰部、足部において男女間で違いがみられた。肩関節では、男性においてインピンジメント症候群、腱板炎・腱板断裂の発生率が高く、腰部では椎間板性腰痛症の発生率が高い傾向であった。また、足部では女性において扁平回内足、中足骨骨膜炎・疲労骨折の発生率が高い傾向であった。これらのことから、男性ではスパイク時に肩関節へ繰り返しストレスが加わり関節運動の破綻をきたしていること、またスパイク時の体幹の伸展屈曲動作により椎間板へストレスが生じていることが推察された。女性においてはブロック・スパイクジャンプ時・着地時に足部へ繰り返される荷重ストレスが傷害発生の要因であることが考えられた。試合を見ていても、男性では一発の強烈なスパイクで得点が決まり比較的ラリーが短いのに対し、女性では長いラリーの末得点が決まることが多い。このような試合の流れの違いが、今回の疾患別傷害発生率に男女間の違いとなって表れたのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 スポーツ現場、日々の臨床においてバレーボール競技者を治療する際に感じている男女間での傷害の違いを提示することができた。バレーボールにおける傷害と性別の関係を知ることで、より効果的にトレーニング指導、傷害予防を行ことができる可能性が示唆された。