- 著者
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白川 充
福島 玲子
久島 和代
- 出版者
- 公益社団法人日本産業衛生学会
- 雑誌
- 産業医学 (ISSN:00471879)
- 巻号頁・発行日
- vol.26, no.2, pp.130-146, 1984-03-20
著者らは1978年以来,桜島の爆発により,鹿児島市内に落下した火山灰を採取し,ラットおよび家兎を用いての動物実験により,火山灰粉塵の気管内注入ならびに,粉塵吸入による呼吸器への影響について研究を行なった.火山灰の化学的分析によれば,SiO_2の含有量が極めて多くて約58%を占め,次いでAl_2O_3,Fe_2O_3,CaO,TiO_2,MnO,P_2O_5,MgOなどの成分を有しており,silicosis発生の可能性が十分認められる.火山灰吸入家兎に,X線所見として粒状陰影も認められた.次に火山灰粉塵の粒度分布をみるに,10μm以下の粒子が,270mesh以下で93.25%,325mesh以下で99.05%を占めており,肺内深く侵入するこれらの粉塵は,気管内注入によっても,また吸入実験によっても,呼吸器に対する病変は著明で,粉塵は肺胞内に密に沈着し,一部はリンパ流にのって血管周囲に,あるいは気管支周囲に沈着し,喰細胞に貧食され,粉塵細胞を形成し,相隣接した肺胞に粉塵細胞が密在して,粉塵結節を形成する.この粉塵細胞の壊死や空胞形成により,線維細胞や小円形細胞等の細胞反応が現われ,これと同時に肺胞壁にガラス様変性が出現し,膠原物質の沈着がみられる.細胞反応はまた線維細胞増殖の増加となり,膠原線維が認められ,網状となってくる.そして粉塵結節がみられるにいたる.著者らは,火山灰の呼吸器に対する作用として,病理組織学的に,気管支炎,肺気腫や無気肺,血管変化,粉塵結節や粉塵性線維化巣等を伴う塵肺症を発生することを実証することができた.したがって,火山灰吸入の有害性について,十分認識することが必要であるとともに,これに対する予防対策,あるいは解決策を真剣に考えなければならない.