著者
福澤 雪子 山川 裕子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.81-89, 2006
被引用文献数
3

本研究の目的は,産後1か月間の母親の対児愛着の形成の様相を明らかにし,精神状態との関連を検討することにある.赤ちゃんへの気持ち質問票日本版(吉田,1998)とエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS:Cox,1987,)を用い,356名の母親(初産婦188名,経産婦168名)を対象に,退院時と産後1か月時に調査を行った.対児愛着得点は,退院時1.92±2.18点,1か月時1.57±2.10点で有意差があった.1か月間で喜び感情が増大し,怒り感情は減少していた.初産婦と経産婦別では,退院時(2.48±2.42点 vs 1.29±1.67点),1か月時(1.94±2.22点 vs 1.15±1.88点)共に有意差があった.EPDS高得点者は,退院時32名(9%),1か月時17名(4.8%)で,2時点共に低得点者は314名(88.2%)であった.EPDS低得点・高得点別の対児愛着得点は,退院時(1.75±1.99点 vs 3.59±3.17点)・ 1か月時(1.43±1.98点 vs 4.18±2.81点)で有意差が見られた.2時点共に低得点の母親とそれ以外の母親では,退院時(1.70±1.96点 vs 3.57±2.94点)・1か月時(1.40±1.96点 vs 2.79±2.69点)で有意差が見られた.以上より,母親の対児愛着は,産後1か月間で変化していることが明らかになり,愛着形成途上であると考えられる.また,経産婦は初産婦と比べてより肯定的な対児愛着であることから,愛着形成には育児経験の差が影響すると考えられる.母親の対児愛着と精神状態には関連が見られ,産後1か月間の母親の精神状態が継続して健全であることが,対児愛着の形成に影響することが示唆された.子どもに対する母親の愛着形成を育むためには,心身共に変化しやすい産後1か月間の母親へのサポートが重要である.
著者
福澤 雪子 山川 裕子
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は産後1年間の初産の母親の対児愛着の経時的変化と母親の背景・特性及び育児ストレス状態やストレス対処能力との関連を明らかにすることにある.F市産科クリニックで出産した母親を対象に倫理的配慮の元に対面と郵送で調査した.調査票はBonding質問票,SOC,EPDS,育児ストレスと生活出来事調査票,属性票を用いた.平成17年2月〜19年2月期間内総対象数2497名(実数591名),回答2135名.産科的ローリスクの母親が多い。以下,初産の母親の結果である.分析対象数1047名.妊婦(32〜40週)145名,退院時255名,1カ月時274名,3カ月時137名,6カ月時124名,1年時112名.平均年齢28.9±4.4歳.Bonding得点退院時2.3±2.1点,6カ月時1.3±2.0点,1年時1.6±2,4点.退院時と3・6カ,月,1カ月時と3・6カ月時で有意差があり,対児愛着は産後1年でより肯定的に変化した.SOC得点は妊婦61.9±10.7点,退院時64.6±11.9点,6カ月時67.9±12。7点,1年時68.4±12.7点.妊娠中と産後1・3・6カ月・1年時,退院時と1カ月時で有意差があり,SOCは産後緩やかに向上した.EPDS得点は退院時5.5±3.6点(高得点18.1%),6か月時4.2±3.2点(高得点11.7%),1年時3.8±2.8点(高得点10.6%).退院時と全時期で有意差があり,退院時の精神状態が最も悪く,1年間に抑うつ状態の母親が9.6〜18.1%出現した.全ての時期で半数を超える母親が育児を負担に感じていた.日常生活でストレスを感じている母親は3カ月以降に半数を超え,家事ストレスが顕著だった.初産の母親の対児愛着やストレス対処能力,精神状態などに関する有意義な基礎的データを得る事が出来た.母親のストレスに応じた産後の支援が必要である.