著者
福田 恭礼 市田 知子
出版者
明治大学農学部
雑誌
明治大学農学部研究報告 (ISSN:04656083)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1-21, 2017-02

2011年3月11日東日本大震災に伴う福島第一原発事故により福島県相馬郡飯舘村は,現在なお全村避難を強いられている。本稿では,飯舘村から避難し,その避難先で営農を再開している4つの事例に焦点を当てる。その上で,避難から営農再開までの経緯,および営農再開を可能にした要因を明らかにし,将来,帰村した際の地域の復興,営農再開の可能性を考察する。本稿の第一義的な意義は震災から5年余を経た現在,営農再開者の実態を記録することにある。環境社会学の被害構造概念を援用すると,原発被災者の置かれた状況は「個人化」であるとされる。飯舘村では,原発事故前には農家が約960世帯あったが,避難後の営農再開状況が把握できたのは約20世帯である。筆者らはそのうちの4つの事例の分析を行った。分析の結果,営農再開を可能にした要因として,個々の置かれた状況に合った営農タイプの選択,避難先での農地の確保,再開に当たって必要となる資金の確保,さらに損害賠償の4つが挙げられる。営農タイプの選択に際しては,非経済的要因も関わっている。帰村後,営農再開の可能性が高い部門は施設園芸(野菜,花卉),畜産(繁殖牛)であると推察される。飯舘村が今後,地域復興を実現するためには,長期的に農業を支援し,再建するための仕組みを作ることが重要である。それぞれの営農再開タイプに沿って,農地や資金面の支援,損害賠償を継続的に行う必要がある。研究の側としては,被災者が現在なお「個人化」した状況にあることを認識しつつ,継続的に注視していくことが重要である。