著者
山中 高光 永井 隆哉 福田 智男 橘高 弘一
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.39, 2003

酸化物Mn<sub>2</sub>O<sub>3</sub>のうち多くの物質はコランダム型構造R c(M:Al,Ti,Cr,Fe等)であり,酸素と金属のイオン半径比がr(M)/r(O)>0.87の物質は希土類A型 P m (M:ランタニド), 0.60< r(M)/r(O)<0.87では希土類B型(M:Sm),希土類C型Ia (M:Mn, Pu, Sc, In)の構造をとる.(Mn,Fe)<sub>2</sub>O<sub>3</sub> (bixbyte) は立方晶(Ia3 , Z=16)であり,純粋なMn<sub>2</sub>O<sub>3</sub>は少し歪んだ斜方晶(Pbca, Z=16)構造を示す.Mn<sup>3+</sup>のd電子軌道(high spin状態)からJahn-Teller 効果により,単純なイオンのサイズ効果から想像されるコランダム構造と異なる.高圧状態での格子系の圧力変化は興味がもたれて来た. Prewitt et at., (1969) は Mn<sub>2</sub>O<sub>3</sub> はC型構造から高圧下でコランダム構造に転移することを提案した.またShono et al., (1997)は20GPa以上でコランダム構造と異なる未知の高圧相の存在を報告した.<br> 高圧単結晶構造解析実験<br> 本実験ではbixbyite(USA Uta)(Mn0.4035Fe0.5485Ti0.0175Al0.0305)<sub>2</sub>O<sub>3</sub>についてダイヤモンドアンビル(DAC)を用いて0.0001, 4.7, 7.0GPaでは研究室のRIGAKU AFC-5を使用し,5.47,8.82,9.64, 11.0GPaは Spring-8(BL02B2), PF(BL-10A)で放射光を用いた高圧単結晶構造解析を行い,構造変化について調べた.等方性温度因子で最小二乗法の解析結果は総べてR=0.05以内に収束した.立方晶のbixbyiteには六配位の2つの陽イオンサイトM1( (8a))とM2(.2. (24d))がある.M1-Oの原子間距離は全て等しい.一方M2サイトはMn2-O(1), Mn2-O(2)とMn2-O(3)各2本ずつありM2-O(1)が著しく伸長している.M1は一様に圧力に対して体積収縮し,M2は著しく8面体の歪みを解消する方向に圧縮される.M2八面体の方が対称性の高いM1八面体より圧縮率が高い Mn<sup>3+</sup>による顕著なJahn-Teller効果は両サイトにおいて見いだせなかった.<br> SR粉末回折による高圧構造相転移と体積弾性率<br> PF(BL-18C)で加熱装置を設置したレバー式DACを用いて40GPaまでの加熱高圧粉末回折実験を行った.20GPa以上では希土類C型構造と異なる高圧相が確認された.降圧するとC型構造に戻ることからこの転移は可逆的であり,高圧相は常圧では維持できないことが明らかになった.32GPaまでC型構造の回折線が確認されたがDACの非静水圧性か転移の運動論かは判明しない.格子体積のP-V-TカーブからBirch-Murnagham のEOS式を用いて得られた体積弾性率はKo=176.5(4.8) GPa and Ko=7.56(0.67) でありAl<sub>2</sub>O<sub>3</sub>, V<sub>2</sub>O<sub>3</sub> , Cr<sub>2</sub>O<sub>3</sub>, Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub> と比較してほぼ同等であった.<br> 高圧相の解析<br> 新しく見い出された高圧相はPrewitt et at., (1969)が提唱したコランダム構造やM<sub>2</sub>O<sub>3</sub>から想像されるイルメナイト,LiNbO<sub>3</sub>型構造などの菱面体晶ではない単斜晶系の結晶である.現在電荷移動(2Mn<sup>3+</sup>=Mn<sup>2+</sup>+ Mn<sup>4+</sup>)について解析中である.高圧下でのスピンモーメントを測定中である.