- 著者
-
秋山 学
秋山 佳奈子
- 出版者
- 筑波大学
- 雑誌
- 挑戦的萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2012-04-01
慈雲の『法華陀羅尼略解』には唯識学的注記が認められる.彼は『雙龍大和上垂示』において,唯識は八識を説くが,密教では「菴摩羅識」をも説くと述べる.慈雲は,天御中主尊が菴摩羅識に当たるとするが,この尊は高天原の神であり,彼の『神儒偶談』には「高天原虚空観」が述べられる.「菴摩羅識」は法界体性智に当たるが,『論語』15-42には,孔子が瞽者を敬ったとある.孔子は瞽者を儒教尚古主義の体現者と認識していたが,瞽者は眼識をも欠くため,彼らの生は「菴摩羅識」に基づく.こうして慈雲は,儒教尚古主義と「高天原虚空観」「法界体性智」に通底する地平,つまり儒・仏・神・密の結節点を『法華陀羅尼略解』に説いたと言える.