- 著者
-
秋田 摩紀
- 出版者
- 教育思想史学会
- 雑誌
- 近代教育フォーラム (ISSN:09196560)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, pp.211-225, 2004-09-18 (Released:2017-08-10)
演説指南書とは、明治10年代から大量に出版されつづけた弁論術の総合マニュアル本である。これらの書物には、あるべき演説の姿や演説者像が図解つきの身振り手振りの技法という形で刻印されており、それはまた演説がまだ新奇な作法であった近代日本に理想とされた知識人像でもあった。本稿はこれらの身振り教授の図を手がかりに、学者に代表される知識人が不特定多数の人々にどのように見られたがっていたかという知識人の欲望を解き明かす。細かな計算つくの「技法」は、見られることに対する不安に裏打ちされていたが、明治40年代から大正時代にかけて、この不安は快楽に転換する。それとともに、身振りは演説者と聴衆を熱狂の渦にまきこむ重要な要素となっていく。演説の身振りを教えることをめぐる問題圏は、たんに演説者の文字通りの身振りだけではなく、近代以後、知識人に理想とされる「身振り」(振る舞い)がどのように構成されてきたかの考察をも含むものである。