著者
臼井 晴信 秦野 吉徳 西田 裕介
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第27回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.163, 2011 (Released:2011-12-22)

【目的】現在、脳血管障害患者の多くが、急性期治療後、リハビリテーション目的で回復期リハビリテーション病棟(回復期病棟)へ入院している。厚生労働省によると、脳血管障害患者で発症から回復期病棟入院までの平均期間は36日、入院患者の平均年齢は71歳である。回復期病棟転院までの期間は短縮しており、入院患者の多くが、脳血管障害患者や高齢者であることを考えると、心血管系リスク管理が必要であると考えられる。当院回復期病棟入院中の脳血管障害患者の入院時標準12誘導心電図においても、57%の症例で何らかの所見を認めた。適切な心血管リスク管理と、運動処方・生活指導を行うために、理学療法士による運動時の心電図評価は必要不可欠であると考える。本症例報告の目的は、心原性脳梗塞により当院回復期病棟に入院し、理学療法実施中に頻脈を認め、心電図評価を行い、生活指導に至った症例の経験より、回復期病棟における心電図評価の必要性について、後方視的に考察することである。なお、本症例報告はヘルシンキ宣言に沿っており、データの使用に際しては、市立御前崎総合病院倫理委員会の承認を得た。 【患者情報・治療歴】症例は70歳代男性で、既往歴に心筋梗塞がある。2009年4月、上下肢脱力により近隣他病院へ搬送され、心原性脳梗塞の診断を受け入院した。第55病日、当院回復期病棟に転院した。入院時標準12誘導心電図において、安静時心拍数は76bpm、心房細動の所見を認めた。第74病日、理学療法での歩行練習直後、橈骨動脈触診により約160bpm、安静坐位時に約130bpmの頻脈を計測した。直後にモニター心電図(CM5)による評価を行い、安静時115bpm、歩行練習時145bpmの頻拍を認め、さらに基線の規則的な動揺を確認した。自覚症状はなく、呼吸数は安静時16回/分、歩行練習直後18回/分であった。理学療法中の評価結果を医師に報告し、医師は理学療法評価結果をもとに、翌日午後からの24時間のホルタ―心電図検査を処方した。第77病日時点での歩行形態は四点杖歩行軽介助で、1日に20m程度を数回練習していた。 【結果】ホルタ―心電図検査の結果、24時間平均心拍数は85bpm、最小心拍数は55bpm、最大心拍数は136bpmであった。18時、7~8時、10~11時台に最大心拍数120bpm以上を計測した。医師の所見は、心房細動に加え心房粗動を認め、リエントリー回路が2:1の頻度で興奮すると頻拍となるとのことであった。また、カテーテルアブレーションの適応となるが、年齢に対し侵襲的であると判断され見送られた。 【考察】退院後の安全な生活の獲得のため、頻拍を防止する必要があると考えた。150bpm以上の頻拍は、心拍出量の減少を来すと言われている。また、心血管系リスクを低減するためには、無酸素性作業閾値(AT)以下の運動強度で日常生活活動を行うことが良いと考える。高齢者でのATは最大酸素摂取量(V(dot)O2max)の約65%と言われている。ホルタ―心電図の検査結果より、頻拍を計測した時間帯は食事時と理学療法実施時(10~11時台)であると考えられた。本症例は、食事時に病室からデイルームまで約50mを車椅子自操により移動していた。以上より、運動時・運動後に頻拍になる傾向があると考えた。その後、理学療法実施中に脈拍の計測、心電図評価を継続して行った。退院前評価時(第175病日)には、屋内歩行は四点杖で自立した。退院前の安静時脈拍数は70~80bpm程度であった。自由な歩行速度で、短距離歩行後の脈拍数は約100bpm程度であり、Karvonenの式より算出した運動強度は約40%V(dot)O2maxであった。しかし、約40m以上連続で歩行すると、130bpm以上の頻脈になる傾向があり、運動強度は85%V(dot)O2max以上となった。以上のことより、本人・家族に対する退院後の生活指導として、自宅外での移動は車椅子による介助移動を推奨し、歩行する場合は40m程度で休憩することを指導した。自宅内移動は杖歩行自立と設定した。 【まとめ】モニター心電図は、非侵襲的で患者の負担も少なく、多くの心機能情報を得られる評価であると考える。今回、回復期病棟入院患者に対し、運動療法中に心電図評価を行い、退院後の生活指導につながった症例を経験した。回復期病棟では、1日9単位までのリハビリテーション実施が推奨されており、入棟後、身体活動量の急激な増加が考えられる。また、回復期病棟の診療保険点数は、検査・薬剤などの点数が入院料に含まる包括医療制度が採られ、検査、投薬は減らされている。そのような回復期病棟の現状・リハビリテーションの特徴を考えた時、回復期病棟入院患者に対し適切な心血管リスク管理を行い、安全な運動処方・生活指導を行うために、運動時の心電図評価は非常に有用かつ必要であると考えられる。