- 著者
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種村 完司
Gloy Karen
- 出版者
- 鹿児島大学
- 雑誌
- 鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 = Bulletin of the Faculty of Education, Kagoshima University. Cultural and social science (ISSN:03896684)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, pp.67-80, 2002
カレン・グロイは,科学とテクノロジーの優勢,デモクラシーの優勢,人権の理念の優勢という今日の時代状況の中で,哲学の基礎が深刻な危機に陥っていることを指摘し,その上で,哲学がどんな課題をはたすべきかを改めて問い,諸論者による哲学の規定を「代償の学問」「啓蒙の学問」「行為の学問」の三類型において把握し,それぞれを批判的に吟味している。しかし,この三つの哲学規定では不十分であり,哲学の危機とは実は西洋の理知主義的な哲学の危機であることを示し,生活世界に根ざした要求,感性や身体性,世界の全体的な意味解釈を包括した哲学が求められていることを訴える。訳者(種村)は,筆者グロイによる今日の思想・文化状況の把握,哲学の三類型への批判的論述に基本的に同意する。哲学のイデオロギー化に対する批判には支持しがたい点もあるが,「理性の他者」をも包括した豊饒な哲学の構築を追求する筆者の姿勢はきわめて貴重だと考える。