著者
種村 完司 Gloy Karen
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 = Bulletin of the Faculty of Education, Kagoshima University. Cultural and social science (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.67-80, 2002

カレン・グロイは,科学とテクノロジーの優勢,デモクラシーの優勢,人権の理念の優勢という今日の時代状況の中で,哲学の基礎が深刻な危機に陥っていることを指摘し,その上で,哲学がどんな課題をはたすべきかを改めて問い,諸論者による哲学の規定を「代償の学問」「啓蒙の学問」「行為の学問」の三類型において把握し,それぞれを批判的に吟味している。しかし,この三つの哲学規定では不十分であり,哲学の危機とは実は西洋の理知主義的な哲学の危機であることを示し,生活世界に根ざした要求,感性や身体性,世界の全体的な意味解釈を包括した哲学が求められていることを訴える。訳者(種村)は,筆者グロイによる今日の思想・文化状況の把握,哲学の三類型への批判的論述に基本的に同意する。哲学のイデオロギー化に対する批判には支持しがたい点もあるが,「理性の他者」をも包括した豊饒な哲学の構築を追求する筆者の姿勢はきわめて貴重だと考える。
著者
下原 美保
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 = Bulletin of the Faculty of Education, Kagoshima University. Cultural and social science (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
no.70, pp.13-40, 2019-03-11

本稿は『新増書目』(松浦史料博物館蔵)における住吉派や板谷派の絵画鑑定及び模写に関する記事を活字化したものである。本書は平戸藩第九代藩主松浦静山が創設した楽歳堂所蔵の文献目録であるが、絵画に関しても項目が立てられ、その伝来や画題の内容、制作年代や筆者、画風についてのコメントが静山自身の言葉によって語られている。その際、静山が助言を求め、手控え用の模写を依頼したのが幕府の御用絵師である住吉派や板谷派である。また、本書から松平定信を中心とする知的ネットワークや考証学的学問態度の広がりを知ることができる。本書を活字化し、公刊することで、近世御用絵師における絵画鑑定や模写、考証学的学問態度の研究に寄与することができると考えられる。
著者
大塚 清恵
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 = Bulletin of the Faculty of Education, Kagoshima University. Cultural and social science (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.97-123,

本稿は、鹿児島大学教育学部研究紀要(人文・社会科学編)第58 号に掲載された「日本・イスラエル比較文化研究 ―日猶同祖論考―」の続編である。一般的に「秦氏」と呼ばれる3 世紀末から5 世紀にかけて朝鮮半島から渡って来たシルクロード渡来人は、時代を超越した高度な知識と技術を持っていた。彼らは、古代日本に技術革命をもたらし、政治・宗教・生産活動・文化を大きく発展させた殖産豪族集団である。この論文は、古墳文化、飛鳥文化を築いた渡来人がイスラエル系であったことを詳述した後、なぜ突然彼らが大挙して極東の島国にやって来たのか?なぜ4 世紀から5 世紀にかけて一見無意味な巨大古墳を現在の大阪の地に築いたのか?なぜ北九州と畿内が秦氏の拠点なのか?なぜ全国各地に奇妙な三本鳥居の神社を建てたのか?という日本史の謎に対して大胆な一つの仮説を立てた。
著者
新名 隆志
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 = Bulletin of the Faculty of Education, Kagoshima University. Cultural and social science (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
no.71, pp.9-28, 2020

筆者はこれまでの研究成果において,力への意志の本質を,抵抗の克服活動における力の発揮の快が自己自身を欲するというあり方において捉えてきた。この解釈は,ニーチェの遊戯概念についてこれまでにない明晰な理解を可能にする。後期思想において,力への意志は生の活動,さらには自然界の運動一般の原理と考えられているが,このような活動の捉え方の原型は,1880年―81年の遺稿断片における,行為を遊戯として捉えるニーチェの行為論に見出される。力への意志説は,この行為論の発展形態として捉えることができるのである。萌芽的な行為論が力への意志説へと花開く過程で決定的なインスピレーションを与えたのが,初期の論考,「ギリシア人の悲劇時代の哲学」におけるヘラクレイトス思想の解釈である。抵抗の克服の遊戯として理解できる力への意志は抵抗の克服の遊戯として理解できるが,そのモデルは,初期のニーチェがヘラクレイトス思想の内に見た戦いの遊戯と考えられる。この戦いの遊戯としての遊戯観が,『喜ばしき学問』準備期のニーチェに大きなヒントを与え,以後の力への意志説の彫琢を可能にしたのである。
著者
佐藤 宏之
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 = Bulletin of the Faculty of Education, Kagoshima University. Cultural and social science (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.1-14, 2012

明治二年(一八六九)八月、金沢城二ノ丸殿中において前田家八家の本多政均が暗殺されるという事件が起こる。その三年後、本多家家中は仇討ちを果たす。この事件は、「明治忠臣蔵」と評価されるにいたるのだが、なぜ本多政均暗殺事件と仇討ちが「忠臣蔵」と冠されるのだろうか。その所以はなにか。本稿は、「明治忠臣蔵」とイメージづけられた歴史像を「歴史的記憶」と位置づけ、その形成過程をあきらかにするものである。本多政均暗殺事件と仇討ちは、数年後には実録物に仕立てられ、明治四二年(一九〇九)九月の従四位への追贈を契機に碑石・銅像の建設運動へと展開し、その後小説へと流れ込む。その過程において、この一件は赤穂事件と重ね合わせられ、義士の物語として人びとに記憶されていくのである。
著者
永迫 俊郎
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 = Bulletin of the Faculty of Education, Kagoshima University. Cultural and social science (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
no.71, pp.29-38, 2020

われわれ人間は環境を認識するさい自ずと主体を切り替えて考えているが,どうしても自分中心になってしまう.人間は落ち着く先を求めて,自分のふるさと(故郷),自分の位置,私はどうするのだということを問い続ける.そこで基盤になるのはそれまでに培った経験で,環境世界の見え方が人によって異なるのはそのためである.鹿児島大学のCOC事業に携わるなかで「島立ち」の重要性に気付き,2017年3月に知名中学生を対象に「故郷(沖永良部島・校区・字)との関わりについてのアンケート」を行った.さらに,2019年7月に大島高校の生徒に対して「郷土・故郷と島立ちに関するアンケート」を実施できた.これらの沖永良部島と奄美大島の生徒に対するアンケート結果にもとづいて,環境世界を認識する基準として「身近な地域」がどのような役割を担っているか検討してみた.その結果,住民のほとんどが一度は島立ちしている周囲の状況や,出身者の郷土会に接してきた経験が,世界認識の基準となる身近な地域と自己の関係性への考究に繫がるのであろうと指摘した.
著者
亀井 森 生田 美津希
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 = Bulletin of the Faculty of Education, Kagoshima University. Cultural and social science (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
no.68, pp.15-1, 2017-03-11

本稿は鹿児島大学附属図書館玉里文庫蔵『阿蘇墨斎玄与近衛信輔公供奉上京日記』を研究資料として活字化するものである。本資料は、文禄五(一五九六)年七月、薩摩配流を許された近衛信尹(信輔)の帰洛に際して、島津氏から随行した阿蘇玄与が記した紀行、および在京日記である。島津氏および近衛信尹研究はもとより、度々登場する細川幽斎、黒田如水・毛利輝元などの武将の動向、戦国時代の文事を窺うことのできる資料である。また本資料とほぼ同じ内容をもつものとして、『群書類従』所収の『玄与日記』がすでに備わるが、本資料とは本文の異同が見られることから、玉里文庫蔵『阿蘇墨斎玄与近衛信輔公供奉上京日記』を活字化・公刊することによって、今後の研究、および学界に寄与することができると考えている。
著者
大塚 清恵
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 = Bulletin of the Faculty of Education, Kagoshima University. Cultural and social science (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.97-123, (Released:2016-10-28)

本稿は、鹿児島大学教育学部研究紀要(人文・社会科学編)第58 号に掲載された「日本・イスラエル比較文化研究 ―日猶同祖論考―」の続編である。一般的に「秦氏」と呼ばれる3 世紀末から5 世紀にかけて朝鮮半島から渡って来たシルクロード渡来人は、時代を超越した高度な知識と技術を持っていた。彼らは、古代日本に技術革命をもたらし、政治・宗教・生産活動・文化を大きく発展させた殖産豪族集団である。この論文は、古墳文化、飛鳥文化を築いた渡来人がイスラエル系であったことを詳述した後、なぜ突然彼らが大挙して極東の島国にやって来たのか?なぜ4 世紀から5 世紀にかけて一見無意味な巨大古墳を現在の大阪の地に築いたのか?なぜ北九州と畿内が秦氏の拠点なのか?なぜ全国各地に奇妙な三本鳥居の神社を建てたのか?という日本史の謎に対して大胆な一つの仮説を立てた。