- 著者
-
稲垣 秀彦
- 出版者
- 日本神経回路学会
- 雑誌
- 日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
- 巻号頁・発行日
- vol.27, no.3-4, pp.97-106, 2020-12-05 (Released:2021-01-08)
- 参考文献数
- 24
本稿では,脳がどのように動作を計画し実行するのか,その神経機構と情報処理について記述する.行動する際,我々はまずどのような動作をするかの意思決定を行う.その決定は短期記憶として維持され,脳が外部・内部情報に基づき,最適なタイミングと判断した時に実行される.例えば,バッターやテニスプレーヤーはボールがリーチに入る以前から,どのようにスイングするかを決め,それは短期記憶として維持される.そしてボールがリーチに入った瞬間,すなわちスイングするのに最適なタイミングだと視覚情報から脳が判断した際,計画された通りにスイングする.このように事前に計画された動作は,そうでないものに比べ,正確かつ初動(Reaction time)が速いことが知られている.このような動作計画の短期記憶は,Motor planningと呼ばれ,運動野及び,間接的・直接的に接続した他の脳領域が必要であることが知られている.動作の計画時,これらの脳領域では持続的神経発火(Persistent activity)が数秒以上に渡って観測され,それがMotor planningを維持していると考えられている.では,1)どのような数理的原理でこの持続的神経発火は維持されるのか?,2)どのような回路がこの持続的神経発火を維持しているのか?,3)どうして,この持続的神経発火は動作の情報を維持しながらも,動作を引き起こさないのか? これらについて,我々や他のグループが発見した最新の知見をまとめる.