著者
橋詰 直道 稲田 康明
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100047, 2016 (Released:2016-04-08)

本研究は,東京大都市圏の超郊外地域に位置する静岡県田方郡函南町の別荘地南箱根ダイヤランドを事例に,定住化に伴う高齢化の実態と居住環境に関わる諸問題について,これまでの調査結果と比較しながら明らかにしようとしたものである。調査では,この別荘地の管理会社から,開発の経緯と現状を聞き取り調査し,ダイヤランド区民の会の協力を得て,2014年9月に戸建て定住世帯と別荘に対してアンケート調査を実施した。その結果は,以下のように要約できる。 アンケート回答定住世帯(202世帯)の世帯主は,8割近くがリタイアした「無職」の世帯で(平均年齢72歳),いわゆる退職移動に伴うリタイアメント・コミュニティを形成している。この別荘地を購入し,転入を決めた理由に「富士山の眺望」と「温泉付き」を魅力としてあげた世帯が多いことがこの別荘地の特徴である。この高齢定住者の多くは,主に首都圏から定年退職を機に,富士山の見える自然の中で,ガーデニングや家庭菜園,ゴルフなどの趣味を楽しみながら第二の人生を満喫することを目的に「アメニティ移動」をした富裕層を中心とする住民達である。彼らの多くは,趣味をとおして「リゾート型リタイアメント・コミュニティ」を構築しているが,別荘地であるが故の不満や将来の生活に対する不安も抱えている。例えば,住宅地内では雑草や樹木の管理,空き地管理などに,環境面では,バスの便や,食料品・日用品の購入などに対して不満を持ち,近い将来「車が運転できなくなった時への不安」が常に付きまとっている。それでも約6割の住民が,この別荘地に「永住する」と回答しているのは,彼らにとってこの場所が不満や不安を忘れさせてくれる豊かな自然と眺望,趣味が楽しめる「楽園」であるからであろう。しかし,既に定住者の高齢化率が53%を超えていることを考え合わせると,老人保健施設が未整備の別荘地では,加齢とともに生活の不安や不満が増すことになり,転居して第三の人生を送る場所を探し始める居住者も少なくない。このことは,千葉県や栃木県の事例(橋詰,2013;2014)と同様,超郊外地域の別荘地ならではの共通の課題を抱えていると言える。