- 著者
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稲田 満夫
- 出版者
- The Japan Geriatrics Society
- 雑誌
- 日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
- 巻号頁・発行日
- vol.44, no.4, pp.513-516, 2007-07-25
- 被引用文献数
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3
87歳の女性.四肢筋力低下のため,起立歩行は不可能,食事に介助が必要となり入院した.高血圧,低K血症(2.7mEq/<i>l</i>),代謝性アルカローシスを認め,一方,尿中K排泄量は20mEq/日以上で,鉱質コルチコイド過剰症と考えられた.甘草配合漢方薬の服用中止約3カ月後も低K血症は持続し,血漿レニン活性0.2ng/m<i>l</i>/時以下,アルドステロン32pg/m<i>l</i>,尿中アルドステロン1.1μg/日と著明に低下していた.甲状腺機能及びACTH―糖質コルチコイド系の機能は,いずれも正常であった.デキサメサゾン1.5mg/日を投与後コルチゾールは2.2μg/d<i>l</i>に抑制され,血清Kは3.9mEq/<i>l</i>,血圧も正常化した.スピロノラクトン50mg/日を併用し,血清Kは4.7mEq/<i>l</i>に上昇,以後スピロノラクトン50∼75mg/日のみで血清K及び血圧は正常に推移し,レニン活性6.9ng/m<i>l</i>/時,アルドステロン186pg/m<i>l</i>まで上昇した.また,食事の介助は不要となった.本症例は,デキサメサゾン及びスピロノラクトンが有効であり,11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2(以下11β-HSD2と略す)活性阻害が考えられ,血清コルチゾール/コルチゾン比は0.95で,80歳代の5例の女性対照群(0.28∼0.72)より高値であった.従来,本症は,甘草に含まれるグリチルリチン酸の慢性的服用による偽性アルドステロン症として知られ,また,その効果は長期間持続するとされる.しかし,今回の症例では,服用中止約1年以上経過後でも,スピロノラクトンを中断すると,低K,低レニン·低アルドステロン,代謝性アルカローシスが出現し,スピロノラクトン再投与で正常化した.最近,本症の高齢発症例がしばしば報告され,グリチルリチン酸以外の11β-HSD2抑制因子として加齢の関与を検討する必要がある.<br>