著者
大石 まり子 西川 光重 蔵田 駿一郎 稲田 満夫
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.8, pp.733-742, 1978-08-30 (Released:2011-08-10)
参考文献数
20

歳以下で発症した若年発症糖尿病患者36例および30歳以上で発症した成人発症糖尿病患者255例で, 先ず, 注意深い前頸部の触診により, 甲状腺腫の有無を検査した.若年発症群で4例 (11.1%), 成人発症群で35例 (13.7%) にび漫性甲状腺腫をみとめた.成人発症糖尿病で, 甲状腺腫を有するものは, 30歳および40歳台の女性に多い傾向を有し, また, 甲状腺腫を有する群で, 血中抗甲状腺抗体, とくに, マイクロゾーム試験の陽性率が34.3%と極めて高率であった.さらに, 甲状腺針生検, あるいは, 抗甲状腺抗体陽性の所見より, 橋本病と診断されたものは, 37.1%以上あり, それは成人発症群の5.1%以上で, 成人発症糖尿病の抗体陽性率にほぼ一致した。一方, 甲状腺腫を有しない群の抗体陽性率は, 従来より報告されている健康人のそれと大差はなかった.かくして, 成人発症糖尿病での抗甲状腺抗体の出現は, 主として, 橋本病の合併によると推定された.若年発症糖尿病で, 甲状腺腫を有する4症例は, 甲状腺針生検により, 橋本病と診断された.したがって, 若年発症群の橋本病合併率は11.1%で, 従来より報告されている若年者の橋本病有病率1%以下に比し, 極めて高いと考えられた.ここで, 橋本病を合併した4症例を詳細に検討すると, インスリン依存性の比較的重症のものが多く, 全例でマイクロゾーム試験が陽性, しかも, 高抗体価であり, 家族歴が比較的濃厚等の特殊性がみられた.
著者
稲田 満夫
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.513-516, 2007-07-25
被引用文献数
3

87歳の女性.四肢筋力低下のため,起立歩行は不可能,食事に介助が必要となり入院した.高血圧,低K血症(2.7mEq/<i>l</i>),代謝性アルカローシスを認め,一方,尿中K排泄量は20mEq/日以上で,鉱質コルチコイド過剰症と考えられた.甘草配合漢方薬の服用中止約3カ月後も低K血症は持続し,血漿レニン活性0.2ng/m<i>l</i>/時以下,アルドステロン32pg/m<i>l</i>,尿中アルドステロン1.1μg/日と著明に低下していた.甲状腺機能及びACTH―糖質コルチコイド系の機能は,いずれも正常であった.デキサメサゾン1.5mg/日を投与後コルチゾールは2.2μg/d<i>l</i>に抑制され,血清Kは3.9mEq/<i>l</i>,血圧も正常化した.スピロノラクトン50mg/日を併用し,血清Kは4.7mEq/<i>l</i>に上昇,以後スピロノラクトン50∼75mg/日のみで血清K及び血圧は正常に推移し,レニン活性6.9ng/m<i>l</i>/時,アルドステロン186pg/m<i>l</i>まで上昇した.また,食事の介助は不要となった.本症例は,デキサメサゾン及びスピロノラクトンが有効であり,11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2(以下11β-HSD2と略す)活性阻害が考えられ,血清コルチゾール/コルチゾン比は0.95で,80歳代の5例の女性対照群(0.28∼0.72)より高値であった.従来,本症は,甘草に含まれるグリチルリチン酸の慢性的服用による偽性アルドステロン症として知られ,また,その効果は長期間持続するとされる.しかし,今回の症例では,服用中止約1年以上経過後でも,スピロノラクトンを中断すると,低K,低レニン·低アルドステロン,代謝性アルカローシスが出現し,スピロノラクトン再投与で正常化した.最近,本症の高齢発症例がしばしば報告され,グリチルリチン酸以外の11β-HSD2抑制因子として加齢の関与を検討する必要がある.<br>