著者
山崎 秀夫 吉川 周作 稲野 伸哉
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.1419-1425, 2004-12-05
参考文献数
20
被引用文献数
2 3

隠岐諸島島後の男池から採取した柱状堆積物試料を用い,そこに記録された重金属汚染の歴史的変遷を解読した.隠岐は汚染の発生源から隔離されているので,男池堆積物には大気を経由して運ばれてきた汚染物質が沈降・集積していると考えられる.得られた長さ107 cmのコアの<sup>210</sup>Pb法による堆積年代は,最深部で1890年であった.また,<sup>137</sup>Csの鉛直分布はそのグローバルフォールアウトの時代変化とよく一致した.このことは,このコアが環境変遷の時系列変動の解析に使用できることを示している.男池堆積物に対する水銀の人為的負荷は1920年代から始まり,堆積物に対するフラックスは1960年代に最大値10~12 ng cm<sup>-2</sup> yr<sup>-1</sup>を示す.それ以降は現在までほぼ一定値で推移する.一方,鉛の人為的負荷は1930年代に始まり,その負荷量は現在にまで増加し続ける.堆積物表層での,そのフラックスは5000 ng cm<sup>-2</sup> yr<sup>-1</sup>に達する.また,水銀は1900~1910年,鉛は1925年ごろに特異的なピークを示すが,その起源については特定できない.このような汚染の歴史トレンドが元素によって異なるのは,その使用履歴や環境への負荷の形態が時代とともに変化していることが反映している.また,男池が朝鮮半島や中国大陸からの影響を受けている可能性も示唆された. <br>