著者
空閑 重則 和田 昌久 磯貝 明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

中性塩の中でセルロースに対する膨潤・溶解作用の最も強いものの一つであるチオシアン酸カルシウムの作用を、この溶液中でセルロースが作るゲルの熱的挙動、および固体セルロースの溶解時の熱現象から調べた。その結果塩-セルロースゲルの融解。ゲル化挙動は水-アガロースゲルと類似した熱可逆性を示すことが分かった。ラミー繊維を用いたX線回析による検討から、チオシアン酸カルシウム-セルロース系では溶解に先立ち準結晶性の錯体が形成されることが分かり、その生成の最適条件(90℃、5〜15分)を決定した。そして錯体の回析パターンから、その構造はアルカリセルロースに類似した疎水面の結合によるシート形成に基づくものであることが示唆された。アルカリセルロースの構造とその中でのセルロース分子鎖の状態を検討し、このときにはセルロースは比較的不動化された状態にあること、したがってセルロースI→セルロースIIの変態は水洗・再生の過程に起こることが強く示唆された。またこのとき逆平行鎖のセルロースIIが選択される理由がセルロース分子鎖の幾何学的構造にあると考えられた。チオシアン酸カルシウム溶液による溶解・再生処理の応用を検討し、TEMPO酸化によるセロウロン酸の調製の検討から、この処理がセルロースの化学修飾のための非晶化前処理として有効であることが分かった。これは他の誘導体調製にも応用できると思われる。次にチオシアン酸カルシウム溶液にセルロース以外の多糖も溶解することを利用してセルロース-アミロースの複合物を調製した。この混合溶液もゲル化するが、熱測定からその挙動にアミロースは分子レベルでは関与しないことがわかった。しかしこのゲルにはアミロースが固定化されており、ビーズ化してクロマトグラフィー用充填剤を作ることができることを見出した。