- 著者
-
窪木 幹夫
- 出版者
- 日本昆虫学会
- 雑誌
- 昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
- 巻号頁・発行日
- vol.2, no.3, pp.97-110, 1999-09-25
- 参考文献数
- 21
日本列島の気候の特徴の一つである太平洋側の気候と日本海側の気候の境界に位置する尾瀬・奥鬼怒地域でPidonia相とその垂直分布, 訪花植物, 幼虫の生活を調べた.1974年から行ってきた全国各地でのPidoniaの生態調査とウルム氷期最盛期以降の植生変遷に関する研究を参考に, この地域でのPidonia相の形成について考えた.1. 1993年7月27日から31日の調査で, 合計24種のPidoniaを確認した.2. 落葉広葉樹林のPidoniaは, その分布域が太平洋側または日本海側のどちらかの地域に片寄る種が尾瀬・奥鬼怒地域でみつかった.P. obscurior, P. insuturata, P. semiobscura, P. limbaticollis, P. oyamaeは太平洋側地域を, P. hakusana, P. hayashii, P. miwai, P. takechiiは日本海側地域を中心に分布していた.3. P. insuturataとP. hayashii, P. obscuriorとP. hakusanaのように, 系統的に近縁な種間に対応的分布関係が調査地域内でみつかった.4. 尾瀬地域のPidoniaはミズキやオガラバナのような木本類を, 奥鬼怒地域のPidoniaはオニシモツケ, シラネセンキュウのような草本類を主要な訪花植物とする傾向があった.5. 1989年7月30日, 燧ヶ岳の亜高山帯の枯れたオオシラビソの樹皮内から摂食中のP. bouvieriの幼虫が見つかった.6. 1995年7月25日, 鳩待峠付近のダケカンバの生木の樹皮内から, P. chairoの蛹室が見つかった.それらの高さは, 11例中8例が地上1m以内, 3例が1∿2.8mであった.7. 日本海側地域では冬の積雪が樹皮内で生活するPidonia幼虫を乾燥から守っている.8. 尾瀬・奥鬼怒地域のPidonia相は後氷期の森林の移動に伴って, 太平洋側と日本海側からこの地域に分布を拡大したPidoniaによって形成された.