著者
古山 公英 黒岩 茂 河合 正計 立川 哲彦
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.85-91, 1983

メチル水銀を多量に含むマグロ肉の摂取に対しては同時に共存するセレンが毒性を減じているという報告がある.一方, マグロ肉を長期摂取すると染色体や病理所見に異常がみられるという報告もある.しかし, 比較的一般人よりマグロ肉を多食すると思われ, また, 毛髪中水銀濃度が高濃度であるマグロ漁船員には異常な所見がみられたという報告はない.そこで今回, 凍結乾燥したカジキマグロ肉45%含有する飼料を作製し, ネコに対して長期投与実験を行い生体への影響を追試した.3年間という長期投与期間のため, 急性伝染病の感染などがあり生存例が少なかったために明確な結論は得られなかったが, 1,175日屠殺例の臓器内蓄積量は対照群に比べ多く, 途中死亡例と比較しても数倍高い値であり, 長期飼育での蓄積の増加がみられた.小脳における総水銀に対するメチル水銀の割合はおのおの57.2, 93.2%と高く, 肝では逆にこの割合は低く, 肝での無機化が示きれた.染色体の異常および神経症状を主とする発症はみられなかった.しかし, 病理組職学的検索においてはメチル水銀中毒所見と思われる小脳の穎粒細胞の脱落, 消失とプルキニエ細胞の消失がみられた.このことはカジキマグロ肉の大量長期摂取は注意を要すると考えられるが, 今後さらに動物数を増加し, dose-response, dose-effectの関係を確かめる必要かあると考えられる.