著者
小林 泰男 小池 聡 永西 修 竹中 昭雄
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

新規メタン低減物質候補であるカシューナッツ殻油の反芻家畜への給与効果と作用機序について検討した。殻油はルーメン内の細菌の増殖を選択的に抑制することで菌叢が変化し、低メタン・高プロピオン酸生成型の発酵が導かれた。その結果、飼料消化や健康をがい阻害することなく、20%以上のメタン低減が可能となった。このように効果的な天然物質は初めてのもので今後の実用化が期待される。
著者
竹中 昭雄
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.35-40, 2010-01

日本の食料自給率はカロリーベースで41%と、食料の6割程度を海外に頼っている。家畜の飼料自給率についてはさらに低く、飼料用の穀物の9割以上は海外から輸入している。この数値はOECD加盟国中アイスランドをのぞいて最低水準であり、もちろん、食料安全保障上からも、「自国で消費する食料は国内で生産するべきだ」という理論は正しいが、日本国内ですべての食料を自給すると言うことは現実的には難しいと考えられることから、輸入に頼らざるを得ないが現状である。さらに、世界的規模で考えると、耕作地の劣化や砂漠化、途上国における人口の増加などから、世界的に食糧の需給は逼迫していると考えてよく、人類の英知を注ぎ開発途上地域を含めた地球上すべての耕作可能地域で効率的な食糧生産を行う必要に迫られている。この時、世界最高水準である日本の農業技術を開発途上地域における効率的な農業生産に活用することは、とりもなおさず日本における食糧安全保障につながるものであり、安心・安全な食糧輸入にも活用できることを意味する。国際農林水産業研究センター(JIRCAS)は開発途上地域における農林水産業の研究を包括的に行う我が国唯一の機関として「国際的な食料・環境問題の解決に向けた農林水産技術の研究開発」、「国際的な食料・農林水産業及び農山漁村に関する動向把握のための情報の収集・分析及び提供」を行うための国際共同研究を国際農業研究機関等との連携・協力の下で推進し、開発途上地域の農林水産技術の向上に貢献し最終的には日本の食の安心・安全を守ることにつなげようとしている。今般、地球温暖化は世界全体における大きな課題であり、農業は環境の上に成り立つ産業であるとともに、農業生産自体から発生する温室効果ガスをいかに抑制しながら効率的な生産を達成することができるのかが喫緊の課題であり、今後のJIRCASの新たな展開方向になるものと考えられる。
著者
小林 泰男 竹中 昭雄 三森 真琴 田島 清 松井 宏樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は草食動物消化管の未培養細菌群の生理・生態を明らかにし、繊維質の消化メカニズムも解明に近づこうとするものである。主に反芻家畜(ウシおよびヒツジ)のルーメン細菌に焦点を当て、これまでDNAレベルで存在のみ認識されていた菌群の分離・培養にチャレンジした。またウマやダチョウの大腸微生物の解析も手がけた。ルーメン内繊維付着性菌群U2は独自に開発したFISH法により牧草茎部に多く存在すること、それらはナイロンバック法で茎部をルーメンに浸漬することで容易に簡易集積できること、抗グラム陰性菌用の抗生物質を添加した液体培地内でさらに集積可能なことを明らかにした。その後PCRスクリーニングを活用することで多くの菌株の中からU2に属する2株の単離に初めて成功した。これらはいずれも繊維付着能を有し、マルラーゼは持たないがセロビオヒドロラーゼを、またキシラナーゼのほかに極めて高いアラビノフラノシダーゼ活性を有することをつきとめた。以上のことから、U2に属する細菌は、単独で繊維質を分解するのではなく、セルロース分解者の近傍に位置し、セルロース分解産物を利用すること、またセルロースを取り巻くヘミセルロース、とくにその側鎖を解離することに貢献しているものと推察された。大腸の細菌遺伝子ライブラリーから、ダチョウおよびウマは既知繊維分解菌の系統的近傍に未知の菌群を多く有していること、ウマは和種馬に特有の菌群が多く存在し、それらが和種馬の繊維分解に貢献している可能性があることを示唆できた。また和種馬は軽種馬にはほとんどみられない大型の繊維分解性プロトゾアを大腸に多く有していることを見つけた。これらの結果は、草食を規定する消化管微生物相の多様性とこの研究領域の奥深さを強く示唆するものであり、いっそうの解析の必要性が感じられる。