著者
小出 博志 竹内 嘉江
出版者
長野県林業総合センター
雑誌
長野県林業総合センター研究報告 (ISSN:1342775X)
巻号頁・発行日
no.8, pp.35-61, 1994-03

この数年、長野県では農林業複合経営或いはきのこ複合経営の中で菌床シイタケを導入する動きが顕著となっているが、栽培歴が短く栽培技術の面で不明な部分が多く残されている。このため、最適培地の開発、防カビ剤の利用開発、栽培容器の検討、環境調節法の検討、その他安定栽培技術の検討等について試験を行い、より効率的かつ安定的な栽培法の解明を図ってきたが、この主な結果については次のとおりである。(1) 最適培地の検討のうち、栄養添加材についてはコメヌカ、フスマ、コーンブラン、スーパーブラン、キノゲン、タイロン、バイデルを検討したが、いずれの材料でも良好な子実発生が得られており特別な材料は要しなかった。しかし、材料によっては多用すると発生不良になる場合があり、使用品種、栽培法を勘案して配合量を調整することが必要と認められた。(2) 培地基材については、ブナオガコを標準に用いたが、他にコーンコブミール、モミガラ粉砕物、シラカンバオガコ、コナラのドリル屑を検討した。この結果、コーンコブミールは菌床シイタケに不適と認められた。モミガラ粉砕物では発生量が増加したが、個数が増え個量の下がる傾向であった。シラカンバオガコでは子実体の品質低下を来していた。ドリル屑を使用し粒子を粗めに調整すると子実体個重の増加などが認められた。(3) 微量添加材については、フスマに消石灰を添加したところ極端な発生量の減少に陥った。ナメコ栽培では効果のみられた組合せであるが、シイタケでは不適と認められた。(4) 菌床シイタケ用品種としては、北研600号を標準に用いたが、この他に明治製菓9K3号、9K4号、森MM1号、塚越系、中国系を供試した。この結果、培地組成や培養法によって子実発生量、形状に大きな差が生じ、品種間の特性に幅があることが認められた。(5) 菌床シイタケ栽培における防カビ剤の利用開発としては、パンマッシュ、ビオガード、ベンレートを検討した。これらは所定の濃度で培地に混和して使用したが、いずれも培地上におけるヒポクレア菌の繁殖を阻止していた。また、シイタケの発生量に対しては影響がなかった。(6) 菌床シイタケ用容器の開発については、4種類のビン、5種類の袋、7種類の栓、さらに培地重量などについて検討した。この結果、通気性のよい容器を使用して培養後に5%以上培地重量が減少する状態が子実体発生量の向上に結び付いていた。培地重量を大きくすると子実体発生率(発生量/培地重量)は下がるものの、個重は増加して規格の向上が認められた。(7) 環境調節法のうち、培養温度については20℃定温としたものが最も子実体発生量が伸びた。25℃の温度は発生量の低下に結び付いていた。10、15℃では培養不足の傾向となっていた。収穫中の水分管理においては、培地水分によって発生個数や子実体水分の状態に差が認められた。(8) 短期栽培において生じた子実体発生不良や奇形形成について検討したところ、北研600号においては種菌の熟度が若くかつ栄養添加材の多い培地組成を用いるとこの症状のでやすいことが判明した。若い種菌を使用した場合には、培養期間を伸ばすことで子実発生量が回復することも判明した。(9) 培養中に形成される子実体原基数を調べたところ、初期には多数形成されるもののある時期を過ぎると数の絞られることが認められた。そして、培養中に形成された原基数が後の発生個数を強く支配するものと考えられた。
著者
竹内 嘉江
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.80, 2011 (Released:2012-02-23)

ツガ・コメツガとマツタケ菌との共生関係 竹内嘉江1)・松下範久2)・(1)長野県林総セ・2)東大院農) symbiosis relation between tsuga sieboldii ,t.diversifolia and tricholoma matsutake by y.takeuchi,n.matsushita.(1)nagano pref.for.res.ins.;2)the univ.of tokyo) マツタケ菌が,ツガ・コメツガの根に共生するのかを明らかにするために,野外のマツタケのシロに苗木を植栽して,マツタケの菌根が形成されるのかを調査した.長野県下伊那郡松川町のマツタケが発生する59~66年生アカマツ林において,林内に植栽した31年生ツガと,マツタケのシロ前線に植栽した6年生コメツガ幼木の根を採集し,実体顕微鏡下で観察した.その結果,両樹種ともに,アカマツのマツタケ菌根と形態的に類似した菌根が観察された.これらの菌根からDNAを抽出し,菌類のrDNA-ITS領域の塩基配列を決定した.得られた塩基配列をDNAデータベース登録配列と比較した結果,両樹種の菌根から得られた配列は,マツタケの登録配列と99%以上一致した.これらの結果から,人工植栽したマツ科ツガ属の2樹種ともに,自然条件下でマツタケ菌が菌根を形成することが実証された.このことによりマツノザイセンチュウによるアカマツ被害の多い地域では,ツガ・コメツガを植栽することによりマツタケのシロを保持できる可能性のあることが明らかになった.
著者
小出 博志 竹内 嘉江
出版者
長野県林業総合センター
雑誌
長野県林業総合センター研究報告 (ISSN:1342775X)
巻号頁・発行日
no.8, pp.35-61, 1994-03

この数年、長野県では農林業複合経営或いはきのこ複合経営の中で菌床シイタケを導入する動きが顕著となっているが、栽培歴が短く栽培技術の面で不明な部分が多く残されている。このため、最適培地の開発、防カビ剤の利用開発、栽培容器の検討、環境調節法の検討、その他安定栽培技術の検討等について試験を行い、より効率的かつ安定的な栽培法の解明を図ってきたが、この主な結果については次のとおりである。(1) 最適培地の検討のうち、栄養添加材についてはコメヌカ、フスマ、コーンブラン、スーパーブラン、キノゲン、タイロン、バイデルを検討したが、いずれの材料でも良好な子実発生が得られており特別な材料は要しなかった。しかし、材料によっては多用すると発生不良になる場合があり、使用品種、栽培法を勘案して配合量を調整することが必要と認められた。(2) 培地基材については、ブナオガコを標準に用いたが、他にコーンコブミール、モミガラ粉砕物、シラカンバオガコ、コナラのドリル屑を検討した。この結果、コーンコブミールは菌床シイタケに不適と認められた。モミガラ粉砕物では発生量が増加したが、個数が増え個量の下がる傾向であった。シラカンバオガコでは子実体の品質低下を来していた。ドリル屑を使用し粒子を粗めに調整すると子実体個重の増加などが認められた。(3) 微量添加材については、フスマに消石灰を添加したところ極端な発生量の減少に陥った。ナメコ栽培では効果のみられた組合せであるが、シイタケでは不適と認められた。(4) 菌床シイタケ用品種としては、北研600号を標準に用いたが、この他に明治製菓9K3号、9K4号、森MM1号、塚越系、中国系を供試した。この結果、培地組成や培養法によって子実発生量、形状に大きな差が生じ、品種間の特性に幅があることが認められた。(5) 菌床シイタケ栽培における防カビ剤の利用開発としては、パンマッシュ、ビオガード、ベンレートを検討した。これらは所定の濃度で培地に混和して使用したが、いずれも培地上におけるヒポクレア菌の繁殖を阻止していた。また、シイタケの発生量に対しては影響がなかった。(6) 菌床シイタケ用容器の開発については、4種類のビン、5種類の袋、7種類の栓、さらに培地重量などについて検討した。この結果、通気性のよい容器を使用して培養後に5%以上培地重量が減少する状態が子実体発生量の向上に結び付いていた。培地重量を大きくすると子実体発生率(発生量/培地重量)は下がるものの、個重は増加して規格の向上が認められた。(7) 環境調節法のうち、培養温度については20℃定温としたものが最も子実体発生量が伸びた。25℃の温度は発生量の低下に結び付いていた。10、15℃では培養不足の傾向となっていた。収穫中の水分管理においては、培地水分によって発生個数や子実体水分の状態に差が認められた。(8) 短期栽培において生じた子実体発生不良や奇形形成について検討したところ、北研600号においては種菌の熟度が若くかつ栄養添加材の多い培地組成を用いるとこの症状のでやすいことが判明した。若い種菌を使用した場合には、培養期間を伸ばすことで子実発生量が回復することも判明した。(9) 培養中に形成される子実体原基数を調べたところ、初期には多数形成されるもののある時期を過ぎると数の絞られることが認められた。そして、培養中に形成された原基数が後の発生個数を強く支配するものと考えられた。
著者
竹内 嘉江 小出 博志 増野 和彦 松瀬 収司
出版者
長野県林業総合センター
雑誌
長野県林業総合センター研究報告 (ISSN:1342775X)
巻号頁・発行日
no.20, pp.41-64, 2006-05

アカマツ林におけるマツタケ増産のための環境改善施業効果について,平成12~16年の5年間調査と試験を行った。主な内容は次のとおりである。(1) 上伊那郡辰野町と下伊那郡豊丘村に各々0.5haの試験地を設定して,気象観測と発生量調査等を行った。(2) マツタケのシロ数は,5年間に辰野町施業区では1箇所,対照区では0箇所で変動なく,豊丘村施業区では22箇所,対照区では8箇所で変動がなかった。(3) 豊丘村試験地での5年間の子実体発生状況をみると,施業区では合計1,137本,46.3kgとなり,対照区と比較して340%本,359%生重となった。(4) 5年間の豊丘村施業区での発生本数の推移をみると,25年間の平均値と比較して127,34,63,138,114%となり,作柄の規則性は認められなかった。(5) イノシシ掘り起こし被害を防止するため,n-ラク酸を散布する試験を行ったが,効果判定は明確にできなかった。(7) シロの前線に位置する広葉樹の根圏を枯らしてシロを広げる施業を行ったところ,子実体発生本数の増加が認められた。(9) 子実体発生本数と気象条件との関係を調べた結果,相関係数r=0.82となる豊凶指数を見出すことができた。