著者
竹内 正義
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.139, no.5, pp.193-197, 2012 (Released:2012-05-10)
参考文献数
24
被引用文献数
1 2

生活習慣病の代表である糖尿病(diabetes mellitus: DM)は,インスリンの分泌障害や標的臓器における作用不全によって慢性の高血糖が引き起こされる代謝疾患群である.しかしながら,患者のQOLと生命予後の観点からみれば,DMは心血管病であるともいえる.事実,DM患者の約40~50%が心筋梗塞や脳血管障害などの心血管系の疾患が原因で死亡したり,寝たきりや認知症に陥っているのが現状である.また,DM腎症は1998年以降,新規透析導入の原因疾患の第1位を占め,その罹患者数は年間17,000人に達しており,網膜症によっても年間約4,000人の方々が失明に至っている.これらの事実はDMにおいては,心血管イベントを含めた慢性の血管合併症を未然に防いでいくことが,治療戦略上最も重要な課題であることを示している.一方,近年,加齢やDM状態で促進的に生成される終末糖化産物(advanced glycation end-products: AGEs),特に糖代謝中間体に由来するグリセルアルデヒド由来AGEs(toxic AGEs: TAGEと命名)が受容体(receptor for AGEs: RAGE)を介し,DM血管合併症の発症・進展に強く関わっていることが明らかになってきた.最近では,高血圧症,認知症,悪性腫瘍,非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis: NASH)などの疾患にも関与することが示されており,TAGE-RAGE系の影響を抑えることが生活習慣病の発症・進展の予防および治療戦略上,必要なことがわかってきた.本総説では,AGEsについて概説するとともに,TAGEの多様な疾患への関与について言及する.
著者
村本 弘昭 武藤 寿生 竹内 正義
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.467-473, 2013-05-28
被引用文献数
1

終末糖化産物(AGEs)は糖尿病や尿毒症において生成が促進され,血管合併症の発現に深く関与していると考えられている.われわれは既報で炭酸カルシウムからセベラマー塩酸塩に変更することにより血清AGEs濃度が低下し,透析患者の血管合併症が軽減する可能性について報告した.しかし,副作用である便秘は無視できない問題と考えられ,今回セベラマー塩酸塩の少量投与による血清AGEs濃度への影響を検討した.3か月以上安定して週3回透析を施行している患者21例を対象に,炭酸カルシウム投与量は変更せずセベラマー塩酸塩1.5 g/日を上乗せ投与し,血清AGEs,脂質,リン,カルシウムおよびインタクトPTH値を経時的に検討した.AGEsは食品中に多く含まれるglucose由来のGlc-AGEsおよび生体内で生成され強い毒性を呈するglyceraldehyde由来のGlycer-AGEsをELISA法で測定した.Glc-AGEsは16.03±10.53 U/mLから24週後5.57±4.40 U/mLと有意に低下した.Glycer-AGEsは開始時の平均値で2群に分けて検討したが,高値群で8.49±1.12 U/mLから24週後6.74±0.84 U/mLと有意に低下し,低値群では変化を認めなかった.Non-HDLコレステロール値は有意に低下し,HDLコレステロール値は有意に上昇した.血清リン値は約0.8 mg/dL低下し,血清カルシウム値には変化を認めなかった.Glc-AGEsは経口的に体内に取り込まれ強毒性のGlycer-AGEsの産生を増強することが報告されており,血清AGEs値の低下はセベラマー塩酸塩による食事中のAGEsの吸着除去効果も考えられるが,そのほかオキシダントなどさまざまな物質の除去による酸化ストレス軽減も影響している可能性が考えられている.今回の検討で,腹部症状を起こしにくい量のセベラマー塩酸塩投与でも有意な血清AGEs値の低下や血清脂質の改善を認め,透析患者の血管合併症を軽減させる可能性を示した.生体へのカルシウムの過剰な負荷を避けるためにも,まず基礎薬として服薬可能な量のセベラマー塩酸塩を投与することは透析患者にとって十分有用性があると考えられた.