著者
竹内 裕希子 ショウ ラジブ
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.79, 2010

1. はじめに<br>2009年8月に発生した台風8号(MORAKOT/モーラコット)は、台湾南部・高雄県甲仙郷小林村が村ごと土砂によって埋没するなど、台湾全土で死者・行方不明者が600名を超える災害となった。台湾は島国であり、その内陸部の多くは山岳地域である。台北などの都心部も含めて、多くの地域が斜面を有しており、台風等による豪雨災害、土砂災害への対応は必須である。現在台湾では、テレビによる災害情報の伝達やハザードマップの作成、災害直後の住宅危険判断指標など、日本の防災技術を取り入れた対策が一部で進められている。<br><br>2.リスクコミュニケーションの必要性<br>自然災害の防止は、ハード対策とソフト対策が併用されて成り立つ。ソフト対策の充実には、住民・地域・行政間において、平常時に防災に関する情報の共有と理解、信頼関係の構築、防災における役割分担等のリスクマネジメントが重要である。このリスクマネジメントを支える方法の一つがリスクコミュニケーションである。リスクコミュニケーションは、個人・集団・組織間のリスクに関する情報と意見の相互的な交換過程であり、リスクコミュニケーションの効果に影響を与える要因は、送り手・受け手・メッセージ内容・媒体の4つに集約することができる(吉川,1999)。<br>リスク情報(リスクメッセージ)の一つとしてハザードマップがある。日本においては、その認知と利用に関して多くの研究が行われており(例えば、竹内2005)、その提示方法や利用方法、配布方法等に問題点を提示している。しかし、2009年に兵庫県佐用町で発生した災害後の調査結果からもこれらの問題点が改善されているとはいえず、ハザードマップに記載される内容を理解する防災教育の場の設定や、地域に見合った行動計画を立案する過程がリスクマネジメンに求められている。<br><br>3.調査概要<br>調査対象地域である台湾中部・雲林県・嘉義県では、2009年台風8号災害にて死者・行方不明者40名、多数の家屋破壊、道路破壊が発生した。また2008年にも大規模な土砂災害が発生しており、雲林県・嘉義県の土石流危険地域では、試験的に土砂災害ハザードマップの作成・公開を行っている。著者らは2009年並びに2010年に雲林県並びに嘉義県内の4つのコミュニティ208世帯を対象としたアンケート調査を実施し、168世帯より回答を得た。アンケート項目は、住民の災害情報の理解と受け取り手段、災害前・後の行動、今後の防災対策、地域における信頼性に関するものであり、これらの結果から、リスク情報の提示方法とリスク情報を活用するための防災教育、またリスクコミュニケーションを行う利害関係者(ステークホルダー)の抽出とその関係性について明らかにした。<br>本発表では、アンケート調査結果と該当地域におけるリスクコミュニケーションの実施概要について報告する。
著者
竹内 裕希子 廣内 大助 西村 雄一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>1.&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; </b><b><u>はじめに</u></b><b><u></u></b> 東日本大震災の「釜石の奇跡」が例に挙げられるように,防災教育を実施する重要性とその効果が認識されている。しかし,防災教育の実施は未だ手探りである場合が多く,体系化したプログラムが提供されていないため,学校防災では現場教員の意識・知識に頼らざるを得ない状況であり,実施内容や頻度は学校において違いが生じている。 本報告では,愛媛県西条市において2006年度から取り組まれ続けてきた防災に関する「12歳教育」の現状と課題を考察する。ヒアリング調査・アンケート調査から「12歳教育」の効果と継続性の要素を整理し,地理的要素である空間認識と地域特性の理解を取り入れた総合的防災教育プログラムである「新12歳教育」の提案を行うことを目的としている。 <b>2.&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; </b><b><u>愛媛県西条市</u></b><b><u></u></b> 愛媛県西条市は瀬戸内海・豊後水道に面し,背後に石鎚山を最高峰とする四国山地に囲まれた愛媛県の東部に位置する。2004年に来襲した台風21号・23号により市内の河川が氾濫し,荒廃した山地からの流木により大きな被害が発生した。この災害を教訓として西条市は,大人に近い体力・判断能力が備わってくる12歳という年齢に着目し,防災教育や福祉や環境に関する活動などを行うことによって社会性を育て,子供たちが災害時には家庭や地域で大きな働きをなせるような力を身につけていくことを目的として2006年度から「12歳教育」に取り組んでいる。 「12歳教育」は,西条市内の小学校6年生児童を対象に総合学習の時間を用いて実施されている。各学校は4月に1年間の防災教育課題を決定し,夏休みに代表児童が西条市が実施する「防災キャンプ」に参加し,防災に関して学ぶ。その後各学校で防災教育活動を行い,2月に西条市内の全6年生が集まり「こども防災サミット」と題した発表会を行う。 <b>3.&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; </b><b><u>調査概要</u></b><b><u></u></b> 西条市教育委員会へのヒアリング調査並びに,西条市内に立地する小学校25校・中学校10校の校長・教頭にアンケート調査を実施した。ヒアリング調査は2013年12月,2014年5月に実施し,アンケート調査は2014年7月に実施した。アンケート調査は,①2006年度から実施されている12歳教育の取り組み内容,②12歳教育の防災教育効果,③総合学習の時間以外の各教科科目内での防災教育の取り扱い状況,④学校管理上の防災の課題の4つの大項目で設計した。 <b>4.&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; </b><b><u>12</u></b><b><u>歳教育の防災教育効果</u></b><b><u></u></b> 12歳教育の防災教育効果を西条市が掲げる教育理念23項目ごとに4件法で回答を求めた。 全ての学校で23. 「防災教育の充実・発展」の理念向上に12歳教育が影響を与えていると回答した。また,11.「西条市の特色ある教育」として捉えられており,17.「ふるさとを愛す態度を養う」21.「コミュニケーション能力の育成」に影響を与えていると回答した。「12歳教育」では,地域住民に話を聞き地図を作成する「防災タウンウオッチング」や学習成果を地域に広める取り組みを行っている学校が多く,それらの地域学習を通じた効果であることが推測される。
著者
竹内 裕希子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

<b>1.&nbsp;&nbsp; </b><b><u>はじめに</u></b><b><u></u></b> 公立小中学校は,児童・生徒の教育の場として子供達の命を守るだけでなく,地域において重要な公共施設として存在し,災害時には避難場所等の役割を果たし,災害が発生した場合には,地域住民の生活の場となる。そのため,学校施設の安全性は防災対策を行う上で重要な課題であり,強い建物としての学校だけでなく,安全性を確保された立地条件において建設を進めることが重要である。 東日本大震災では,6,244の公立学校(幼稚園・小学校・中学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校,文部科学省調べ2011)が被害を受け,そのうち202の学校が「被害状況Ⅰ」に分類されている。この「被害状況Ⅰ」は,建物の被害が大きく,建替え又は大規模な復旧工事が必要とされるものである。建替えを必要とする被害は,学校施設の立地に大きく影響を受けている。 本報告では,岩手県釜石市南部に位置する唐丹地区住民を対象とした学校施設に関するアンケート調査結果から,地区内に立地する学校施設に対する地域住民の要望とその背景に存在する地形条件を考察する。 <b>2.&nbsp;&nbsp; </b><b><u>岩手県釜石市唐丹地区</u></b><b><u></u></b> 岩手県釜石市唐丹地区は唐丹湾に面しており,東日本大震災では15haが津波により浸水した。この津波により唐丹湾を有する唐丹地区では32名の死者・行方不明者,343戸の住宅被害が発生した。 唐丹地区には,唐丹小学校ならびに唐丹中学校が立地している。唐丹小学校は明治9年(1873年)の開校当時は,現在の唐丹中学校の位置に立地していた。その後の児童増加と中学校開設にともない,昭和22年に図1中の唐丹小学校跡へ移転した。東日本大震災では鉄筋校舎3階の天井まで浸水し,校舎は使用不能となった。震災後は釜石市内の平田小学校に間借りをしていたが,2012年に仮設校舎が現在の唐丹中学校敷地内に建設されたことに伴い,現在は唐丹中学校内に併設されている。唐丹中学校は,津波被害は受けなかったが,地震動により校舎が破損被害を受けた。 <b>3.&nbsp;&nbsp; </b><b><u>アンケート調査概要</u></b><b><u></u></b> 岩手県釜石市唐丹町住民を対象として,2011年10月8日~10月24日に実施した。対象数(配布数)は746世帯で,回収数(率)は308世帯(41.2%)であった。配布方法は,地区内居住者は自治会を通じて各戸へ配布し,震災による地区外居住者は郵送した。回収は全て郵便で行った。 <b>4.&nbsp;&nbsp; </b><b><u>学校施設への要望と地形条件</u></b><b><u></u></b> 回答者の50%が,学校施設から高台(国道45号線)へ直結する道路の設置を要望した。これは,東日本大震災時に地域住民が避難をした国道45号線と唐丹中学校の高低差が31.8m存在していること,国道45号線と学校をつなぐ現在の道路は東日本大震災時の浸水ライン上に位置していることが理由として考えられる。平常時の学校運営と学校用地として確保できる敷地面積を考慮した場合の立地場所と,災害時を考慮した場合の立地要因・地形要因を検討する必要がある。