- 著者
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竹川 慎哉
- 出版者
- 日本教育方法学会
- 雑誌
- 教育方法学研究 (ISSN:03859746)
- 巻号頁・発行日
- vol.29, pp.13-24, 2004-03-31 (Released:2017-04-22)
本研究の目的は,リテラシー形成理論と実践構想の比較検討をとおして,リテラシー形成における「批判」の意味を考察することにある。ここでは,アメリカにおいて,相互に議論を交わしている批判的思考論文化的リテラシー論そして批判的リテラシー論をとりあげる。リテラシー形成理論において,「批判」という言葉は多義的である。批判的思考論において,批判的であるということは,客観的・論理的・政治的に中立的になっていくことを意味し,それを支えるスキルの獲得が何より重視される。文化的リテラシー論は,アメリカ国民として政治的・文化的に生活するために必要な選ばれた知識の獲得が,批判的な思考を可能にすると強調する。しかし,前者において,スキルの強調は,学ぶ内容の無視へとつながり,学問の境界や支配的文化に無批判になってしまっている。そして,後者においては,ナショナル・アイデンティティとしての共通知識の強調が支配的文化への同化を促すものになっている。それらと対照的に,批判的リテラシー論によれば,「批判」とは,個人の私的な問題とされるものを社会構造の公的な問題として位置づける意識を持ち,その関係を問い直すこととして理解されている。さらにそれは,文化の差異性やこれまで排除されてきた他者のF声」に対する応答も含むものである。このような政治的かつ倫理的な意味において,「批判」がリテラシー形成に組み込まれることが求められている。