- 著者
-
上村 祥代
竹本 拓治
- 出版者
- パーソナルファイナンス学会
- 雑誌
- パーソナルファイナンス研究 (ISSN:21899258)
- 巻号頁・発行日
- vol.6, pp.67-79, 2019 (Released:2020-10-20)
- 参考文献数
- 9
本研究では、日本のライドシェアの先行事例から現状と課題、さらに過疎高齢化かつ公共交通の不便な地域におけるライドシェアの受容性を明示し、利用と運賃との関係性の考察を行った。
まずライドシェアの事例を把握した結果、利便性に関しては2つの事例ともに向上したと考えられるものの、各々運行範囲や様々な時間帯への対応、ドライバー確保の課題が示された。また運賃に関しては、ささえ合い交通では、利用者は高いと不満を感じており運行管理側も課題と認識していた。しかし、ささえあい交通の運行実績やささえ合い交通の開始年度を拠点に見たデマンドバスの利用者減少、さらに海外事例の知見を踏まえると、運賃のマイナス面より
も利便性のプラス面が優先し利用する傾向がみられ、一定の利用に繋がっていた。一方、なかとんべつライドシェアでは、始めは無料としていたものの、利用者の意志により受益者負担となったことで不満の声は聞かれず有料化に伴う運行回数の変化もみられなかった。そして、ささえ合い交通の事例を基に運行管理の枠組みや留意点を整理すると、運行管理者を軸とし輸送サービスの提供や安全管理への配慮が行われており、今後導入にあたり検討すべき要因を明らかとした。
次に、今後ライドシェアの検討や展開が見込まれる過疎高齢化かつ公共交通の不便な地域の一例として福井県吉田郡永平寺町の高齢者の地域交通の意識把握を行った。その結果、まず料金面よりも利便性を優先事項に挙げていた。そして、ライドシェアや共助型輸送の輸送方法が地域になじみ展開できる可能性があると期待していた。また、運賃に関しては、ささえ合い交通やなかとんべつライドシェアで取り入れられている「固定型」を選択した。しかし、先行事例の実態を踏まえると、利用者の満足を得られるような運賃設定の工夫が求められる。
以上より、運賃より利便性、無料より有料化、謝礼や選択型より固定型の運賃が評価されることについては、行動経済学のナッジが意識決定に影響した効果と考えられる。
今後、ライドシェアを普及、展開を進めるにあたっては、利便性の評価が最重要となり、運賃が高いと実感しても一定の利用は見込まれる。しかし、利用者の運賃に対する満足を得るためには、利用者に輸送サービスの価値を評価させ固定型の運賃設定を行う戦略を取り入れることが望ましいと示唆される。