著者
武田 宏太郎 竹本 真生 江島 健一 多田 英生 籾井 英利 砂川 賢二
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.8, pp.946-951, 2009 (Released:2013-06-12)
参考文献数
24

症例は32歳, 女性. 近医美容形成外科にて頭皮上眼瞼移植術, および大腿部と臀部の脂肪吸引術を施行された. 帰宅途中に気分不良, 呼吸困難となり総合病院に救急搬送された. 血圧70mmHgとショック状態で, 胸部X線写真にて肺血管陰影の増強を認め, 急性うっ血性心不全と診断された. 心筋逸脱酵素の上昇があり心筋障害の存在が示唆され, 心エコーでは心機能は左室駆出率20%と低下し, 左室中部から基部が全周性に無収縮で心尖部のみが収縮していた. 緊急冠動脈造影を施行されたが正常冠動脈であった. 精査加療目的で同日当科搬送となった. 来院時, 肺うっ血を認めるも循環動態は安定していた. その後心室壁運動異常は急速に改善し, 第6病日の心エコーでは壁運動は正常に回復していたため, 第8病日に軽快退院となった. 本例は美容形成外科術後に冠動脈支配では説明できない領域に左室壁運動異常が生じ, 数日で急速に改善したことより, たこつぼ心筋症と考えられた. 典型的には心尖部の動きが低下し, 心基部が過収縮するたこつぼ型を呈する. 本例のように逆たこつぼ型を呈するたこつぼ心筋症は比較的珍しいと考えられたため, 文献的考察を加えてここに報告する.
著者
伊藤 浩司 竹本 真生 向井 靖 Inoue Shujiro Kaji Yoshikazu Chishaki Akiko Sunagawa Kenji
出版者
福岡医学会
雑誌
福岡医学雑誌 (ISSN:0016254X)
巻号頁・発行日
vol.100, no.12, pp.360-366, 2009-12-25

Radio-frequency catheter ablation (RFCA) was introduced for the treatment of reentrant tachyarrhythmias and has proven its usefulness, efficacy, and safety. It has gained the position of an early stage treatment option rather than being a 'last resort' option for certain groups of patients with supraventricular tachycardias including atrioventricular nodal reentrant tachycardia (AVNRT). The RFCA technique for AVNRT seems to have become established throughout these years and the right-side approach is considered to be the conventional method. However, in one percent of the patients with AVNRT it has been reported that they cannot be cured by the conventional method and a left-sided approach has been recommended. We experienced a case which presented with a fast/slow atypical AVNRT. We ultimately successfully treated the case with a left-sided (trans-aortic) RFCA approach. We believe the trans-aortic RFCA approach is a necessary alternative in the case of an unsuccessful RFCA via the right-sided approach even though the frequency of its need is very low.高周波カテーテルアブレーション治療は,様々な頻拍性不整脈の重要な治療オプションとなっている.房室結節回帰性頻拍症に対してもカテーテルアブレーション治療は,近年確立されたものになってきており,通常は右心アプローチにより行われている.しかし,1%の患者においては通常の右心アプローチでは焼灼できず,左心アプローチが有効である症例も報告されている.今回我々は,特に稀有型(fast-slow)房室結節回帰性頻拍症において左心からの通電が有効であった症例を経験した.症例は20歳代男性.頻回の動悸を訴え,Holter心電図で症状と一致して心拍数180 bpm のnarrowQRS tachycardia を認めた.12 誘導心電図は正常で,心エコーも器質的心疾患は認めなかった.電気生理学的検査では通常とおり,高位右房(HRA),ヒス束,右室(RV),冠静脈洞(CS)に電極カテを留置した.またEnSite 電極を右房内に留置した.RV 頻拍刺激にて頻拍刺激.160 ppmではearliest retro A=His(fast pathway;FP),160 ppm.でearliest retro A=CS 開口部(slowpathway;SP)の室房伝導を認めた.ATP 20mg で室房伝導の消失を認めた.RV期外刺激では室房時間は減衰伝導を認め,S1-S1=500ms, S1-S2=430 ms で室房時間のjump up と2 echo を認めた.HRA 期外刺激では,心房ヒス時間は減衰伝導を認めたが,jump up は認めなかった.イソプロテレノール投与下のプログラム刺激でもnarrow QRS tachycardia は誘発されなかったが,上記所見よりfast-slow の稀有型房室結節回帰性頻拍と診断し,SP への通電を行うこととした.先ずABL カテーテル(Fantasista)にてCS 開口部近傍およびCS 内をRV頻拍刺激下でマッピングを行い,最早期A 波興奮部位にて数回通電を行ったが,junctional rhythm は出現するもののSP の焼灼には至らなかった.さらにRV 頻拍刺激下でEnSite にてマッピングを行いSP のRA へのbreakoutpoint の同定を行った後に同部位で数回通電を行ったが,junctional rhythm は出現するもののやはりSP の焼灼には至らなかった.心筋深部あるいは左心側のSPの存在を考え,経大動脈アプローチにて僧帽弁輪上中隔寄りにて通電を行ったところ,SP を介する室房伝導は消失しその後再発を認めなかった.さらに,RV 期外刺激での室房時間のjump up の消失も認めた.SP の走行のvariation は多数報告されているが,本症例は稀有型房室結節回帰性頻拍症において左心からの通電を必要とした非常に稀有な症例と考えられ考察を加えて報告する.