- 著者
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竹本 靖子
- 出版者
- 大阪歯科学会
- 雑誌
- 歯科医学 (ISSN:00306150)
- 巻号頁・発行日
- vol.64, no.1, pp.51-56, 2001
- 参考文献数
- 28
- 被引用文献数
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私たちが研究の対象としている口腔の感染症のほとんどは, 常在菌やその他の病原性の弱い細菌による感染症である.また, ここ数年, 世間を騒がせている黄色ブドウ球菌による食中毒, 風呂の水から感染したレジオネラ症, MRSAやVREによる院内感染なども病原性の弱い細菌による感染症である.これら弱毒菌感染症の特徴は, まず, 原因微生物の病原性が弱いので, compromised hostに発症する日和見感染症であるということである.二番目として, 原因菌の特定が困難であること, 三番目として, 院内感染の場合, 原因菌が薬剤耐性化することにより, 病原性を発揮している点が挙げられる.弱毒菌が病原性を示すメカニズムは, 毒性の強い外毒素により病原性を示す強毒菌に比べると, 1つの病原因子だけでは説明できず, 多くの病原因子が関与している.口腔感染症では, う蝕, 歯周病, それ以外の歯性感染症が主なものであるが, その主要原因菌として, それぞれ, Streptococcus mutans, Porphyromonas gingivalis, Prevotella intermedia/nigrescensが挙げられる.これらの細菌は, 宿主への付着および定着, 免疫系からの回避, 宿主細胞の破壊, 病巣の拡大などに関わるさまざまな病原因子を産生し, 病気を起こしていると考えられる.Compromised hostが増加していたり, 現代の日本のように, 環境の衛生状態がよいと, いままでは問題とならなかった弱毒菌による感染症はあなどれない.また, 薬剤耐性菌や腸管出血性大腸菌E. coli O 157:H7のように, 本来, 病原性の弱かったものが, 病原性を獲得して, 病原性を発揮する現象も見うけられる現代では, 弱毒菌感染症について, 注意を払わねばならない.