- 著者
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田中 敏子
佐藤 寛晃
笠井 謙多郎
- 出版者
- 学校法人 産業医科大学
- 雑誌
- Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
- 巻号頁・発行日
- vol.41, no.2, pp.217-223, 2019-06-01 (Released:2019-07-09)
- 参考文献数
- 13
- 被引用文献数
-
1
被解剖者は高度肥満で猪首の20代女性である.ダウン症による精神発達遅滞,難聴,先天性白内障および緑内障による弱視などの障害を有していた.他院において緑内障の眼圧検査に際し,チオペンタール(TP) 350 mgを5分間で点滴静注した深鎮静が施された.静注後10分で検査は終了したが,医師がその場を離れた隙に呼吸が急速に悪化した.直ちに人工呼吸が施されたものの約20時間後に死亡し,医療過誤の疑いで司法解剖に付された.剖検上,特記すべき損傷や疾病を認めず,血清中のTP濃度は0.80 µg/mlであった.TPは超短時間作用型の静脈注射麻酔剤で,患者とコンタクトを取りつつ,少量を頻回に投与して最少量のTP投与にとどめるのが一般的である.この事例は,障害のためにコンタクトの取りづらさが予想されたものの,安易なTPの単回投与によって呼吸停止が生じ,医師不在のために蘇生が遅れたことが死因と判断された.