著者
馬田 敏幸
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.25-33, 2017-03-01 (Released:2017-03-23)
参考文献数
43
被引用文献数
1

将来の新エネルギーを創出すると期待されている核融合技術には,燃料となるトリチウムが大量に使用され,放射線作業従事者のトリチウムによる被曝が懸念される.また福島第一原子力発電所の廃炉作業の工程では,発生しているトリチウム汚染水対策による,作業従事者の健康問題が懸念されている.トリチウム被曝の形態は,低線量・低線量率の内部被曝が想定されるが,経口・吸入・皮膚吸収により体内に取り込まれたトリチウム水は,全身均一に分布することから影響は小さくないと考えられる.さらに有機結合型トリチウムは生体構成分子として体内に蓄積され,長期被曝を生じるので,トリチウムの化学形の考慮は重要となる.トリチウムの生体影響を検討するために,生物学的効果をX線や γ線と比較する必要があり,トリチウムの生物学的効果比(RBE)の研究が多くされてきた.本総説では,確率的影響に分類される放射線発がんや,発がんの原因となる突然変異など生物効果を指標にして得られたRBEについて紹介する.加えて,近年開発されてきた,低線量・低線量率被曝の生物影響を検出可能な遺伝子改変マウスを使った動物実験系の原理と,トリチウム実験の概要についても紹介する.
著者
岡﨑 龍史 太神 和廣 横尾 誠 香﨑 正宙
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.277-290, 2017-12-01 (Released:2017-12-16)
参考文献数
20
被引用文献数
1

2011年および2013年に行った福島第一原子力発電所事故の健康影響へのアンケート調査では健康影響への不安は,患児の保護者と放射線知識の高い医師や医学生とでは,患児の保護者の方がより強いことが確かめられた.福島県民健康調査事業で甲状腺検査によって,甲状腺がんが190名報告され,放射線影響の可能性に対する福島県民の不安は残っている.今回,事故後6年を経過後の放射線教育の受講状況や不安に対する調査を行うとともに,福島県内の患児の保護者に対して,放射線影響と福島県民健康調査事業での甲状腺検査についてアンケート調査を行った.全質問20項目の無記名自記式アンケートを福島県小児科医会各医療機関へ郵送し,受診した小児・青少年の保護者,および医療機関関係者から回答を得た.505部回収され,回収率は26.7%であった.患児の保護者では,「放射線教育を受けたことがない」が30%,「人体の影響についての教育を詳しく受けていない」が67%であった.患児の保護者では,「甲状腺がん」,「子どもへの健康影響」,「将来生まれてくる子や孫への遺伝的な影響」の項目に対し,医療従事者に比べ不安が高い傾向にあった.現状での甲状腺がんの発症は,原発事故による放射線影響と考え,甲状腺検査の継続を望む者が多いことが判明した.
著者
大津山 彰
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.175-183, 2016-06-01 (Released:2016-06-14)
参考文献数
27

2008年HLEG(High Level Expert Group on European Low Dose Risk Research)は低線量影響研究の意義とその重要性を提唱し,発がんも含めて低線量放射線影響研究は国際的関心事となってきている[1,2].我々は長年動物実験を行っているが,放射線発がん実験は動物種の選択や,放射線の種類,量,照射方法など組合せが複雑で,解析もマクロからミクロ,分子生物学分野におよび,線量と効果の関係の目標を定めにくい領域である.我々の実験系では特異的自家発生がんが少ないマウスを選択し,目的の誘発がんとしてマウスで自家発生が希有な皮膚がんを選択した.また被ばくによる他臓器への影響を避け,かつ皮膚限局照射が可能なβ線を用いた.これにより照射部位の皮膚のみをがんの発生部位とし,他臓器の放射線影響を最小限にして長期反復被ばくを可能にし,放射線誘発腫瘍が生じる実験系を作った.照射は週3回反復照射で1回当りの線量を0.5~11.8 Gyまで段階的に線量を設定した.11.8~2.5 Gy線量域ではどの線量でも発がん時期と発がん率に変化はなかったが,この線量域から1.5~1 Gy線量域に1 回当りの線量を下げると発がん率に変化はみられず発がん時期の遅延が生じた.1回当りの線量0.5 Gyではマウスの生涯を通じ照射を続けてもがんは生じなかった.この結果はマウスでは,生涯低線量放射線被ばくを受け続けても生存中にがんが発生しない線量,つまりしきい値様線量が存在することを示している.
著者
戸次 加奈江 稲葉 洋平 内山 茂久 欅田 尚樹
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.201-207, 2017-09-01 (Released:2017-09-14)
参考文献数
17
被引用文献数
3 41

受動喫煙による健康影響が懸念される中,たばこ規制枠組条約(FCTC)締約国として我が国でもその対策が推進され,現在,2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて,受動喫煙防止のための効果的な法の整備が国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)の要請のもと進められている.一方,Philip Morrisは新型タバコとして,加熱式タバコiQOSの販売を開始した.iQOSは,副流煙が低減化された新型タバコとして販売されているものの,受動喫煙や毒性に関しては限られた情報しかない.本研究では,科学的な観点からiQOSを評価するため,タバコ葉およびタバコ主流煙中の主成分であるタール,ニコチン,一酸化炭素およびタバコ特異的ニトロソアミン(TSNAs)の濃度レベルを従来の燃焼式タバコ(標準タバコ)と比較した.iQOS専用のタバコ葉および主流煙からは,標準タバコと同程度のニコチンが検出されたのに対して,TSNAsは,タバコ葉および主流煙のいずれも標準タバコの5分の1程度にまで濃度が低減され,燃焼マーカーとしても知られる一酸化炭素(CO)は,標準タバコの100分の1程度の濃度であった.しかしながら,この様な有害成分は完全に除去されているわけではなく,少なからず主流煙に含まれていた.今後,iQOSの使用規制には,有害成分の情報に加え,受動喫煙や毒性などの情報から,総合的に判断していく必要がある.
著者
岡﨑 龍史
出版者
産業医科大学、産業医科大学学会
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.Special_Issue, pp.85-89, 2013-10-01 (Released:2013-10-10)
参考文献数
3

日本における放射線障害防止の法律は,昭和30年に施行された「原子力基本法」が元となる.原子力の研究,開発及び利用の促進のために制定されたが,海外からの放射線同位元素の輸入の増加に伴い,昭和32年に科学技術庁所管で「放射性同位元素による放射線障害の防止に関する法律」,つまり「放射線障害防止法(障防法)」が制定され,昭和33年に施行された.平成24年原子力規制委員会が環境省の外局として発足し,管轄している.労働基準法の面からもさらに充実した規制が生じたため,昭和34年に労働省令第11号として「電離放射線障害防止規則(電離則)」が制定された.これまでにも何度も改正が行われたが,平成23年福島原子力発電所(福島原発)事故に伴い,新たに改正されている.障防法及び電離則を解説し,労災認定について述べる.
著者
黄 啓徳 百崎 良 宮崎 慎二郎 若林 秀隆 社本 博
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.303-315, 2019-09-01 (Released:2019-09-20)
参考文献数
35

急性疾患に対するリハビリテーションと栄養療法の併用効果検証を目的としたシステマティックレビューを行った.MEDLINE,CENTRAL,EMBASEと医中誌データベース検索の986件と他ソース16件の論文からリハビリテーション治療中の急性疾患症例に対する栄養介入効果を検証した2件のランダム化比較試験を抽出した.コクランrisk of bias評価とランダム効果モデルを用いた解析,GRADEアプローチでエビデンスの質評価を行った.Jonesらの研究ではQOL改善効果がなかった(標準化平均差[SMD] 0.55, 95%信頼区間[CI] -0.05 - 1.15; P = 0.12)が,Hegerovaらの研究では筋肉量(SMD 0.65; 95%CI, 0.36 - 0.93; P < 0.00001)とADL(SMD 0.28, 95%CI 0.00 - 0.56; P = 0.05)に改善効果を認めた.急性疾患に対するリハビリテーション栄養療法は筋肉量増加とADL改善に効果的な可能性がある.しかしアウトカム全般にわたる全体的エビデンスの質は低く,さらに研究が必要である.
著者
堀江 正知
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.Special_Issue, pp.1-26, 2013-10-01 (Released:2013-10-10)
参考文献数
25
被引用文献数
1

日本には,労働者数50人以上の事業場に産業医を選任する法令上の義務があり,2010年の選任率は87.0%とされる.1938年に旧工場法の省令が「工場医」を規定し,1947年に労働基準法の省令が「医師である衛生管理者」を規定し,1972年に労働安全衛生法が「産業医」を規定し,1996年に産業医学の研修受講が選任要件となった.労働衛生の歴史上,当初,工場労働者の傷病の治療と感染症の予防で医師が必要とされた.その後,健康診断等の健康管理及び作業環境測定等の衛生管理の手法が開発され,局所排気装置や労働衛生保護具等の対策が普及し,医師以外の労働衛生の専門職が制度化され,産業医と事業者との関係が法令で明確に規定された.現在,日本医師会と産業医科大学は産業医を養成し,日本産業衛生学会は専門医制度を確立した.産業医の専門性向上,労働衛生の専門職の活用,小規模事業場の産業保健活動,リスクアセスメントの推進,複雑化した法令の体系化等が課題である.
著者
久保 達彦
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.273-276, 2014-12-01 (Released:2014-12-13)
参考文献数
8
被引用文献数
3 5

厚生労働省が実施する労働安全衛生特別調査(労働者健康状況調査)と総務省が実施する労働力調査を基に,我が国の深夜交替制勤務者数の推計を行った.検討の結果,我が国において雇用者に占める深夜業従事者割合は平成9年13.3%,平成14年17.8%,平成19年17.9%,平成24年21.8%と一貫して増加しており,最新調査年である平成24年においては1,200万人の労働者が深夜業に従事していると推計された.交替制勤務従事者と,深夜業を含む交替制勤務者の雇用者に占める割合も一貫して増加傾向にあった.
著者
藤野 昭宏
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.273-291, 2015-12-01 (Released:2015-12-13)
参考文献数
42

医学概論とは如何なる学問なのかについて,1.医学概論への誤解,2.歴史的変遷,3.目指す医師像,4.教育の現在,5.根源的思想,そして6.医のプロフェッショナリズムとの関連,の6つの観点から考察した.医学概論とは,医学とは何かをつねに根源的に問い直す,医学の本質を見極める学問のことであり,生命倫理学,臨床倫理学および医療人類学の3本の柱とその土台である人間学から成り立つ.人間学としての医学概論を学ぶ意義は,霊性的自覚によって病いの語りへ共感し,医学を通して根源的いのちを実感する癒し癒される人間関係を体験的かつ思索的に理解し,自己自身の人間性と霊性を深めることにある.そして,その根源的思想にあるのが「矛盾的相即」の考え方である.この矛盾的相即の思想を,生涯にわたって医学を通して体験的に理解すること,これが医学概論の究極の使命である.
著者
吉村 玲児 堀 輝 香月 あすか 阿竹 聖和
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.233-236, 2016-09-01 (Released:2016-09-13)
参考文献数
11
被引用文献数
1 3

メージュ症候群は,顎口腔部や顔面のジストニアを特徴とする比較的稀なジストニアである.不随意に生じる瞬目や顎の突出も伴う.舌の突出,閉眼滑舌不良あるいは広頸筋の突っ張りなどの症状が認められる事もある.症例は44歳の日本人統合失調症の患者である.初発症状は,幻聴,迫害妄想,精神運動興奮,連合弛緩,落ち着きのなさであった.何種類かの抗精神病薬が試みられた後,リスペリドンによる治療が開始され緩徐に4 mg/日まで増量された.その結果上記の症状の改善が認められた.リスペリドン4 mg/日投与開始1年後から,顎口腔部の不随運動や眼瞼痙攣,光過敏症,開口障害,顎の痛み,構音障害などの症状が出現した.これらの症状からメージュ症候群と診断された.抗精神病薬がリスペリドンからパリペリドン 6 mg/日へと変更となった.その結果,瞬目,光過敏症,顎の痛み,開口障害は徐々に改善した.しかし,構音障害は持続した.パリペリドンに変更6ヶ月後にはこの患者のメージュ症候群の症状は完全に治癒した.患者は現在パリペリドン12 mg/日で精神症状の再燃もなく統合失調症の寛解状態を維持している.本症例はリスペリドンでメージュ症候群が生じた場合には,パリペリドンへの変更により改善する可能性を示唆している.しかし,その機序に関しては不明である.
著者
堀尾 政博
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.299-314, 1981-09-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
1

硝酸塩中毒は, 反芻動物では国の内外を問わず多発しているが, これは大量の糞尿を施肥した土地に生育した作物を摂食した際, その中に多量の硝酸塩が含まれていたことに起因することが報告されている.すなわち, 反芻動物では摂取された硝酸塩は, 第1胃内の細菌によって還元される過程で中間代謝産物としての亜硝酸に変化する. 硝酸およびその還元物質は, 第1胃壁から速かに吸収されて血液中に入るが, 亜硝酸はさらに赤血球内でヘモグロビンを酸化してメトヘモグロビン(MHb)を形成する. これは酸素運搬能カを持たないため組織は酸素欠乏におちいり, 動物は死に至る. この中毒は一般にヒトでは発生しないと思われているが, 近年発ガン物質N-ニトロソアミンの先駆体となっていると言われている硝酸塩等について, ヒトでも再考する必要のある事例が知られてきた. その意味で反芻動物は現象が強調された1つのモデルとしてみなすことができるので, 硝酸塩の代謝, MHbの消長およびそれらが生体に与える影響などについてここに総説としてまとめて紹介した.
著者
藤野 善久 久保 達彦 松田 晋哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.Special_Issue, pp.177-183, 2013-10-01 (Released:2013-10-10)
参考文献数
32
被引用文献数
1

近年,健康格差が社会的課題として取り上げられている.2012年に発表された第2次健康日本21の素案の中で,健康格差への取り組みが優先的課題として提示された.このような背景を踏まえて,健康格差の是正に向けた産業保健のあり方について,公衆衛生および社会疫学的視点から考察を行った.はじめに,職域における健康格差について,レビューを行い,また,社会疫学やライフコースアプローチで得られた知見にもとづき,職域における健康格差の成立機序についてコンセプトモデルを提示した.さらに,産業保健において健康格差に取り組むための具体的ツールとして,健康影響評価の活用について解説する.
著者
本田 智子
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.191-199, 2018-06-01 (Released:2018-06-21)
参考文献数
14
被引用文献数
1

産褥期は育児のために母親の睡眠が分断され,睡眠時間の減少や疲労の訴えがしばしばみられる[1].特に,産褥早期の育児において授乳の占める割合は大きく,睡眠への影響因子の一つであると考え,本研究では褥婦の授乳方法・授乳姿勢と睡眠感の関連について明らかにすることを目的とした.入院中(経腟分娩では初産婦6日目,経産婦5日目,帝王切開分娩では8日目)と産後1ヶ月の2回,授乳や睡眠に関する質問紙と,睡眠感の評価にOSA睡眠調査票MA版を用いて調査を実施した.その結果,分娩歴や分娩方法の違いによる睡眠感に有意差は見られなかったが,入院中の授乳方法において,夜間は直接授乳群(n = 46)で疲労回復や睡眠時間の項目の得点が有意に高く(P < 0.05),授乳姿勢においては添え乳群(n = 14)で疲労回復に関連する項目の得点が高かった(P < 0.05).さらに産後1ヶ月の授乳方法でも,昼(P < 0.01)・夜(P < 0.05)ともに直接授乳を行う褥婦の睡眠感が良好であることが分かったことから,産褥期の睡眠感を高めるには,直接授乳と添え乳が効果的であった.また,産後1ヶ月で睡眠感の改善がみられた.産後1ヶ月で睡眠感の改善がみられたのは,母親が育児に慣れたことや,授乳パターンが把握できるようになったことなどにより,スムーズに授乳できるようになったことが影響していると考えられる.
著者
大隣 辰哉 大田 慎三 関原 嘉信 西原 伸治 大田 泰正 佐藤 倫由 田中 朗雄
出版者
産業医科大学、産業医科大学学会
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.231-242, 2015-09-01 (Released:2015-09-12)
参考文献数
25

脳脊髄液漏出症は特発性または時に外傷性に発症し,起立性頭痛や誘因のない慢性硬膜下血腫(CSDH)の原因となる稀な疾患である.我々はこの連続20例の治療経験があり,この疾患の現状と問題点も含め報告する.2006年4月から2014年3月までにCTミエログラフィー(CTM)または脊髄MRIで硬膜外髄液漏出を確認した連続20例(女性11例,年齢44.7±12.1歳,22-65歳)の臨床的特徴を後ろ向きに調査した.症状は,起立性頭痛のみが10例,起立性頭痛にCSDH合併が6例,体位と無関係の頭痛にCSDH合併が4例であった.治療は,2例で直達術での縫合またはフィブリン糊による瘻孔閉鎖を施行した.14例で硬膜外自己血パッチ(EBP)を施行(うち1例は上記直達術),後半9例は血管内カテーテルを用いた腰椎からの単回アプローチでの広範囲EBPを施行した.穿頭血腫ドレナージ施行の1例を含む残る5例は,輸液のみで治療した.症状が頭痛のみの10例中9例は,この消失または軽減が得られた.CSDHを合併した10例は,1例で穿頭血腫ドレナージ後に輸液のみで治療,9例でドレナージ後にEBPを施行して全例再発を抑制できた.脳脊髄液漏出症はいまだ病態が不明だが,CTMおよび脊髄MRIにて的確に診断し,点滴加療が無効,起立性頭痛が高度またはCSDHを繰り返す症例には,血管内カテーテルを用いた広範囲EBPでほぼ治癒可能とわかった.
著者
長野 正幸 照山 絢子 福元 美紀 渡邊 友美 中村 美佳子 百崎 良
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.299-305, 2018-12-01 (Released:2018-12-19)
参考文献数
19

脳外傷はしばしば,行動障害や復学困難を引き起こす.しかし,脳外傷後の復学困難を誘起する因子についてはいまだ明らかにされていない.本研究の目的は若年脳外傷患者における1年以内の復学困難に関連する因子について探索的に検討することである.本研究は既存データセットの二次解析である.米国のTraumatic Brain Injury Model Systems National Databaseに登録された脳外傷患者(受傷時16歳)のデータを用いた.1年以内に復学できた者とできなかった者とで2群間比較をし,脳外傷重症度に着目したサブグループ解析を追加した.教育歴が10年未満の者を除外し,合計309人の脳外傷患者が抽出された.そのうち246人(80%)の患者は1年以内の復学が困難であった.復学した患者群では復学できなかった患者群に比べ重症脳外傷例が少なかった(29% vs 44%,P = 0.03).また,復学した患者群では復学できなかった患者群に比べリハビリテーション期間が長く(平均日数: 40 vs 29; P = 0.001),脳外傷重症度によるサブグループ解析でも重症脳外傷者群(平均日数:46 vs 29,P = 0.02),非重症脳外傷者群(平均日数: 37 vs 26,P = 0.02)ともに同様の結果であった.脳外傷重症度に関わらず,リハビリテーションの不足が脳外傷後の復学困難に関連していた.
著者
東 華岳 安達 泰弘 林 春樹 久保 金弥
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.245-253, 2015-12-01 (Released:2015-12-13)
参考文献数
52
被引用文献数
14 13

骨粗鬆症は骨量の減少と骨質の劣化が特徴で,骨折しやすくなるもっとも一般的な代謝性骨疾患である.超高齢社会の到来を受け,骨粗鬆症は大きな社会問題になっている.一方,生体はつねにさまざまなストレスにさらされ,その生理機能に影響を及ぼしている.最近の研究によれば,慢性の精神的ストレスがさまざまなシグナル経路を介し骨粗鬆症の危険因子である.本総説では,慢性の精神的ストレスと骨粗鬆症との関連性について,最近の進展状況を概説する.中枢神経系,特に視床下部による骨代謝調節機構の存在が明らかにされてきた.ヒトおよび動物研究によると慢性の精神的ストレスが視床下部-下垂体-副腎皮質系,交感神経系,および内分泌・免疫系への影響を介して骨量を低下させ,骨質を悪化させる.噛む動作にはストレス緩和作用があることが証明されている.噛む動作は,ストレス誘発神経内分泌反応を弱め,ストレス性骨量減少を改善する.したがって,噛む動作は,慢性の精神的ストレスに関連する骨粗鬆症の予防・治療において,有用なアプローチになりうる.また,慢性の精神的ストレス,噛む動作と骨粗鬆症との相互関係についてのメカニズムも考察した.慢性の精神的ストレスは視床下部-下垂体-副腎皮質系と交感神経系を活性化させ,性ホルモンと成長ホルモンを抑制し,炎症性サイトカインを増加させ,骨形成の抑制と骨吸収の促進により最終的に骨量減少を引き起こす.
著者
松田 晋哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.Special_Issue, pp.67-72, 2013-10-01 (Released:2013-10-10)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

フランスは日本と同様,産業医の資格と義務的配置を法律で定めている.フランスの産業医は専門医の一つであり,卒後4年間の研修の後,企業の産業保健サービス部門あるいは中小企業を対象とした企業間産業保健サービスで勤務する.日本と異なり,フランスでは事業所規模に関わらずすべての労働者が産業医による健康管理を受けることができる.フランスの産業医の職務は予防的な活動が中心であり,緊急時を除いて臨床行為を行うことはできない.その主な職務は健康診断の実施とその結果に基づく適正配置,そして職業病や労働災害防止のための職場環境改善である.かつては職務が予防的業務に限定されていたため十分な研修医が集まらない現状があったが,職域における健康管理の重要性が社会的に認知されるようになり,その専門医養成数及び志望者が増加している.また,職務内容もメンタルヘルスや生活習慣病を予防するための活動の重要性が大きくなっている.このように両国の産業保健の状況には多くの共通点があり,したがって今後比較制度研究が本学関係者を中心に行われることが期待される.

3 0 0 0 OA 占いと女性

著者
種田 博之
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.351-362, 2000-12-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
1

私たちは, 自明的に占いを女性のもの一占いの需要・受要者(客)および占いの供給者(占い師)を女性とみなしがちである. しかし, 占いに関しての歴史的資料などを概観すると, 必ずしも女性だけが需要(受容)者でもなければ供給者でもないことがわかる. すなわち, 占いと女性の関係を自明視してしまうと見落とてしまう社会学的な問題群がある. そうした問題群の一つとして「占いの女性化」という問題がある. 「占いの女性化」とは, 占いの担い手一占いの供給者(占い師)と需要・受容者(客)が女性へと特化, 方向づけられていく過程である. 本稿は, 「占いは女性のもの」とする自明視を崩していくために, 「占いの女性化」という問題を浮かび上がらせることを目的とする. また, 近代以降の日本社会における女性像に関する視点を提起する.
著者
Ryuji OKAZAKI
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.27-31, 2014-03-01 (Released:2014-03-14)
参考文献数
6

1895年にレントゲンがX線を発見した翌年には,手の皮膚炎が約60件,また脱毛の報告がされている.慢性放射線皮膚炎はX線管の製作者や医師・技師などX線を職業として扱う人に現れ,これが最初の職業被曝である.その後皮膚がんを含めた晩発障害の発生は医師・技師の深刻な職業病と捉えられている.1910年代に放射線を扱っている人の血液障害,特に白血病の発生が目を引くようになった.1914年頃からダイヤルペインターが夜光時計文字盤にラジウムを混ぜて塗布したことによる骨髄炎が生じている.その他放射線による障害は,1986年チェルノブイリ原子力発電所事故における放射線死や発がん,1999年東海村JCO臨界事故における放射線死などがある.2011年東京電力福島第一原子力発電所事故における放射線障害はまだみられていないが,今後のフォローは必要である.
著者
岡﨑 龍史 大津山 彰 阿部 利明 久保 達彦
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.91-105, 2012-03-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
2 3

福島第一原子力発電所(福島原発)事故後, 放射線被曝に対する意識について, 福島県内一般市民(講演時200名, 郵送1,640名), 福島県外一般市民(52名), 福島県内医師(63名), 福島県外医師(大分53名, 相模原44名, 北九州1,845名)および北九州のS医科大学医学部学生(104名)を対象にアンケート調査を行った. アンケート調査の回収率は, 福島県の一般市民は講演時86%と小児科医会を通じて郵送した50%と, 福島県外の一般市民91.3%および福島県内医師は講演時に86%回収, また福島県外の医師は, 相模原市85%および大分県は講演時に86%回収し, 北九州市はFAXにて17%回収となった. 福島原発後の放射線影響の不安度は, S医科大学医学部学生が12.2%ともっとも低く, 次に医師(福島県内30.2%, 県外26.2%)が低く, 福島県外一般市民(40.4%), 福島県内一般市民(71.6%)の順に高かった. 不安項目に関しては, S医科大学医学部学生や福島県医師は, 健康影響よりも環境汚染(食物や土壌汚染)に対し不安を持つ割合が高く, 福島県外医師や福島県内外の一般市民は健康被害および環境汚染の双方に不安を持っていた. 放射線の知識が高い人が, 現状に対する不安は少なく, 放射線知識の普及の必要性が結果として示された.