著者
笹川 洋子
出版者
神戸親和女子大学
雑誌
親和國文 (ISSN:02879352)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.84-109, 1997-12-01

最近の笑いの研究動向として、相互作用に位置づけて笑いをとらえ直そうという試みがあるが、現段階での研究例は少ない。このような笑いを明らかにするには、さらにどのような場面で、どのように笑いが起こるかを観察する必要があろう。そこで、本稿では電話会話に現れる462の笑いの場面をデータとし、笑いの役割を探る試みを行う。データの分析にあたって、以下のように分析の範囲と分析視点を措定する。まず、笑いを自分の感情をありのままに表現する「自己開示」の笑いと、印象操作を意図した「自己呈示」の笑いに分ける。しかし、自己開示の笑いは、意図せざる結果であり、本稿の考察目的とする、笑いがどのように対人関係に規定されるかという問いをたてることができない。にのため、分析対象からはずす。そして、ここでは自己呈示の笑いのみを考察の対象とする。次に、自己呈示の笑いをとらえる視点として、ゴフマンのフェイス・ワークの概念を借用し、笑いを(1)共感を示しあう呈示儀礼の笑い、(2)話し手が聞き手のフェイスを脅す意図はないことを示す回避儀礼の笑い、(3)自己のフェイスを調節する品行の笑いに分類する。さらに、それぞれの笑いについて、会話データを用いて考察を加え、相互行為において笑いが儀礼行為の方略として多様な役割を担っていることを明らかにしていく。